モテ男でインキュバスな彼は魅了の力を無くしたい
インキュバス覚醒
今までオウマ君は、私と手を繋ぐことで生気を吸い取っていた。だけど以前、こうも言っていた。キスやそれ以上のことで、より多くの生気を吸い取ることができるって。
なら、意識を失っている今のオウマ君だって、キスすれば生気を吸い取ってくれるかもしれない。
上手くいくかなんてわからないけど、こうする以外思い浮かばなかった。
「なっ……何を!?」
エイダさんが何か叫んだけど、それを気にする余裕なんて無い。どうかうまくいきますように、オウマ君が助かりますように。そう思いながら、唇を押し当てる。
「ん──っ」
触れ合った唇から、そっと吐息を送り込む
このやり方が正しいのかは分からないけど、前に聞いたことのある応急措置の要領だ。
だけど正直なところ、上手くいってる実感は無い。相変わらずオウマ君は無反応だし、いつも生気を吸われる時にあるような脱力感もない。
やっぱり無理なの? そんな思いがよぎるけど、それでも唇を重ねるのをやめない。
諦めたくなかった。私達を守るために戦ったオウマ君のために、できることはなんだってしたかった。私の生気を全部あげたっていい。そう、この時は本気で思った。
その思いが届くのを願って、二度、三度と、何度も口を重ね、息を送る。
それをどれだけ繰り返しただろう。ピクリと、ほんの少しだけ、オウマ君の唇が動いたような気がした。
「──っ!」
僅かに体を離し、今のが錯覚でないか、ちゃんと確認しようとする。だけど次の瞬間、オウマ君の手が伸びてきて、気づいた時には、再び彼の元へと引き寄せられていた。
「えっ?」
少しの間があって、オウマ君に抱きしめられていることに気づく。
意識が戻った? そう思ったけど、すぐにそれを考えることも出来なくなる。更に近づいてきた彼の口が、私の口塞いできたからだ。
「ん……んんーっ!」
慌てたのは、突然のことに驚いたからだけじゃない。
熱いんだ。唇から熱が伝わってきて、それが全身を駆け巡る。そして熱を得た代わりに、急速に力が抜けていく。
さっきまでとは違って、生気を吸われているんだと、感覚で理解する。
生気を吸われることなら今までにも何度かあったけど、今回のは桁が違った。絡み合う舌から、まるで貪るように奪い取られていく。
だけど、私はそれを少しも嫌だとは思わなかった。だってこの熱も、疲れも、全てはオウマ君に生気を分け与えられた証だから。
そのオウマ君は、どこか虚ろな様子で、まだまともな意識なんて戻ってないみたい。
だけど、ようやく唇を話したかと思うと、ゆっくりと立ち上がる。
そして、人間とは違うもう一つの姿へと変わっていく。紫色の肌に、羊のような角、そして蝙蝠に似た羽を備えた、インキュバスの姿に。
そしてインキュバスとなった彼のお腹の傷は、完全に塞がっていた。
「シアン? なんで……」
そこでようやく、オウマ君に意識が戻る。何が起きたか分からないって様子で、丸く見開いた目で私を見る。
今まで自分が何をしていたか、覚えていないのかもしれない。
けど、この際そんなのはどうでもいい。オウマ君が助かった。それがただ嬉しかった。
「これでもう、大丈夫だよね……」
ホッとため息をついた、その時だった。
急に、絹を引き裂くようなうるさい声が聞こえてきた。
「な、な、なんなのよそれは!? いったいどういうこと!?」
エイダさんだ。
どうやら初めて見るオウマ君の姿にパニックになってるみたいだけど、お願いだから静かにしてほしい。
とっさにそんなことを思ったけど、これってまずいかも?
だけどオウマ君は少しも慌てることなく、私を安心させるように優しく囁いた。
「大丈夫。今の俺なら、何とかできるから」
そんなよくわからないことを言った後、オウマ君は真っ直ぐにエイダさんを見る。そして何を思ったのか、そっと、掛けていたメガネを外した。
「オウマ君?」
オウマ君がメガネをかけているのは、それで、僅かながら魅了の力を遮断できるから。なのにそんなことをしたら、さらにエイダが魅了されるんじゃないの?
そんな心配が浮かんだけど、それを口にする間も無く、すぐにエイダさんに異変が起きる。
「────っ!」
ビクリと体を震わせたかと思うと、次の瞬間、もはや正気を失ったかのように、トロンとした虚ろな表情へと変わる。
そんな彼女に向かって、オウマ君は言う。
「忘れろ。今見たもの全て」
「はい──」
短い返事と共に、エイダさんの目が閉じられ、ドサリとその場に倒れ込む。
いったい何が起きたのか。さっぱりわからないけど、それ以上考えるには、私も限界だった。既に力の抜けた体から、今度は意識が遠退いていく。
とっさにオウマ君が抱きかかえてくれて、私は彼の手に包まれたまま、そっと目を閉じた。
なら、意識を失っている今のオウマ君だって、キスすれば生気を吸い取ってくれるかもしれない。
上手くいくかなんてわからないけど、こうする以外思い浮かばなかった。
「なっ……何を!?」
エイダさんが何か叫んだけど、それを気にする余裕なんて無い。どうかうまくいきますように、オウマ君が助かりますように。そう思いながら、唇を押し当てる。
「ん──っ」
触れ合った唇から、そっと吐息を送り込む
このやり方が正しいのかは分からないけど、前に聞いたことのある応急措置の要領だ。
だけど正直なところ、上手くいってる実感は無い。相変わらずオウマ君は無反応だし、いつも生気を吸われる時にあるような脱力感もない。
やっぱり無理なの? そんな思いがよぎるけど、それでも唇を重ねるのをやめない。
諦めたくなかった。私達を守るために戦ったオウマ君のために、できることはなんだってしたかった。私の生気を全部あげたっていい。そう、この時は本気で思った。
その思いが届くのを願って、二度、三度と、何度も口を重ね、息を送る。
それをどれだけ繰り返しただろう。ピクリと、ほんの少しだけ、オウマ君の唇が動いたような気がした。
「──っ!」
僅かに体を離し、今のが錯覚でないか、ちゃんと確認しようとする。だけど次の瞬間、オウマ君の手が伸びてきて、気づいた時には、再び彼の元へと引き寄せられていた。
「えっ?」
少しの間があって、オウマ君に抱きしめられていることに気づく。
意識が戻った? そう思ったけど、すぐにそれを考えることも出来なくなる。更に近づいてきた彼の口が、私の口塞いできたからだ。
「ん……んんーっ!」
慌てたのは、突然のことに驚いたからだけじゃない。
熱いんだ。唇から熱が伝わってきて、それが全身を駆け巡る。そして熱を得た代わりに、急速に力が抜けていく。
さっきまでとは違って、生気を吸われているんだと、感覚で理解する。
生気を吸われることなら今までにも何度かあったけど、今回のは桁が違った。絡み合う舌から、まるで貪るように奪い取られていく。
だけど、私はそれを少しも嫌だとは思わなかった。だってこの熱も、疲れも、全てはオウマ君に生気を分け与えられた証だから。
そのオウマ君は、どこか虚ろな様子で、まだまともな意識なんて戻ってないみたい。
だけど、ようやく唇を話したかと思うと、ゆっくりと立ち上がる。
そして、人間とは違うもう一つの姿へと変わっていく。紫色の肌に、羊のような角、そして蝙蝠に似た羽を備えた、インキュバスの姿に。
そしてインキュバスとなった彼のお腹の傷は、完全に塞がっていた。
「シアン? なんで……」
そこでようやく、オウマ君に意識が戻る。何が起きたか分からないって様子で、丸く見開いた目で私を見る。
今まで自分が何をしていたか、覚えていないのかもしれない。
けど、この際そんなのはどうでもいい。オウマ君が助かった。それがただ嬉しかった。
「これでもう、大丈夫だよね……」
ホッとため息をついた、その時だった。
急に、絹を引き裂くようなうるさい声が聞こえてきた。
「な、な、なんなのよそれは!? いったいどういうこと!?」
エイダさんだ。
どうやら初めて見るオウマ君の姿にパニックになってるみたいだけど、お願いだから静かにしてほしい。
とっさにそんなことを思ったけど、これってまずいかも?
だけどオウマ君は少しも慌てることなく、私を安心させるように優しく囁いた。
「大丈夫。今の俺なら、何とかできるから」
そんなよくわからないことを言った後、オウマ君は真っ直ぐにエイダさんを見る。そして何を思ったのか、そっと、掛けていたメガネを外した。
「オウマ君?」
オウマ君がメガネをかけているのは、それで、僅かながら魅了の力を遮断できるから。なのにそんなことをしたら、さらにエイダが魅了されるんじゃないの?
そんな心配が浮かんだけど、それを口にする間も無く、すぐにエイダさんに異変が起きる。
「────っ!」
ビクリと体を震わせたかと思うと、次の瞬間、もはや正気を失ったかのように、トロンとした虚ろな表情へと変わる。
そんな彼女に向かって、オウマ君は言う。
「忘れろ。今見たもの全て」
「はい──」
短い返事と共に、エイダさんの目が閉じられ、ドサリとその場に倒れ込む。
いったい何が起きたのか。さっぱりわからないけど、それ以上考えるには、私も限界だった。既に力の抜けた体から、今度は意識が遠退いていく。
とっさにオウマ君が抱きかかえてくれて、私は彼の手に包まれたまま、そっと目を閉じた。