モテ男でインキュバスな彼は魅了の力を無くしたい
伝えなきゃダメなのに
オウマ君の言う通り、この数日、私はずっと、彼を避けていた。
だって、近くにいたらドキドキしてしまうから。魅了の力にかかっているって、嫌でも自覚してしまうから。
そんな私の態度は、全部バレていたんだ。
「ねえ、何で?」
急に避けられたしりたら、気になるのは当然だ。そして私も、ちゃんと事情を話さなきゃいけない義務がある。魅了にかかってるって、言わなきゃいけない。
そう思っているのに、まだ言い出すことができないでいた。
「そ、そんなことないって」
そう言った私の声は、僅かに震えていた。こんなんじゃ、オウマ君も納得するわけがない。
「じゃあ、どうして今も逃げようとするんだよ!」
見え透いた言い訳に苛立ったのか、こっちに向かって腕を伸ばしてくる。
だけど、オウマ君の手が触れようとしたその瞬間、私の手が素早く動き、反射的にそれを弾いた。
「やっ──!」
バシッと辺りに音が響いたかと思うと、それっきり、オウマ君の動きが止まる。
それから少し遅れて、彼の顔が悲しそうに歪む。
「ご、ごめん──」
出てきたのは謝罪の言葉。だけど悪いのは、明らかに私だ。いきなり変な態度をとって、なのに何も話さない。こんなんで納得しろって方が無理な話だ。
「───っ!」
だけど私は、何も言う事ができなかった。一言も発っせないまま、彼に背を向けると、逃げるようにしてその場を去っていく。
そして、オウマ君の姿が完全に見えないところまで歩くと、立ち止まり、盛大に頭を抱えた。
「うわぁー、なんで逃げたりしたの! あそこはちゃんと謝らなきゃいけないとこでしょ。それに、魅了されてるってこと、ちゃんと言わなきゃいけないのに!」
やらかしてしまったと後悔しながら、思いっきり叫ぶ。
だけどその後、今度はそれとは反対に、小さな声で、ボソボソと呟く。
「でも、私まで魅了されたって知ったら、オウマ君どう思うのかな? ショックだろうな。それに、もうオウマ君の側にはいられなくなるかも」
口にした瞬間、もう何度目かも分からない胸の痛みを感じた。
ただ今回はいつもと少し違っていて、そこにドキドキはなく、ただ苦しいだけだ。
本当のことを言わなきゃいけないって、何度も思った。だけど、未だ言えない理由がこれだった。
私がオウマ君の側にいられたのは、魅了の力がきかない、唯一の女の子だったからだ。だからこそ、力を制御する特訓にも付き合えた。
その大前提が崩れてしまったら、もう彼の側にいられなくなってしまう。オウマ君にとって、私はもう必要なくなってしまう。
そう思うと、すごく怖かった
「こんな風に思うのも、魅了にかかってるせいなのかな?」
大きくため息をつきながら呟くけれど、その声に答えてくれる人は誰もいなかった。
オウマ君に謝って、ちゃんと全ての事情を話した方がいい。そうは思っても、再び話しかけることもできないまま放課後になり、憂鬱な気分で家に帰る。
そんな私を出迎えたのは、傍らにレイモンドを従え、満面の笑みを浮かべたお父さんだった。
「お帰り、愛しの娘よ。今日も良き日だったかい?」
「はぁ──」
質問の答えは、このため息だけで十分だろう。元々楽天的な人だったけど、オウマくんの家から資金援助を受けるようになって以来、いよいよ頭にお花畑ができたような浮かれっぷりだ。
もしこれで、実は依頼を果たせてませんなんて言ったら、どうなってしまうんだろう。
「何か用? 何もないなら、部屋に戻りたいんだけど」
悪いけど、今はとても付き合える気分じゃない。
いつもなら私がこんな対応をした時、お父さんはしょんぼりしながら引き下がる。だけど、今回は違った。
「待て待て、用ならあるぞ。実は、お前に新しいドレスを買ってやろうと思ってな。既に服屋も呼んである」
「ドレス? 別にそんなのいらないんだけど」
一応貴族の娘として全く必要ないわけじゃないけど、お母さんが昔着ていたお古がある。わざわざ新しく買わなくてもと思うのは、染み付いた貧乏性のせいだろうか?
そう思っていると、レイモンドが耳打ちしてくる。
「旦那様は、お嬢様の晴れ姿が見たいのですよ。ここはひとつ、親孝行だと思ってつきあってもらえませんか?」
「まあ、いいけど」
私だって、何が何でも嫌ってわけじゃない。頷くと、お父さんはますます上機嫌になる。
「それは良かった。ちょうど、もうすぐ聖夜祭があるからな。御披露目はちょうどいい」
「聖夜祭?」
ああ、そういえばそんなのもあったっけ。もうすぐ学校でもパーティーがあるけれど、今まですっかり忘れていた。
だって、近くにいたらドキドキしてしまうから。魅了の力にかかっているって、嫌でも自覚してしまうから。
そんな私の態度は、全部バレていたんだ。
「ねえ、何で?」
急に避けられたしりたら、気になるのは当然だ。そして私も、ちゃんと事情を話さなきゃいけない義務がある。魅了にかかってるって、言わなきゃいけない。
そう思っているのに、まだ言い出すことができないでいた。
「そ、そんなことないって」
そう言った私の声は、僅かに震えていた。こんなんじゃ、オウマ君も納得するわけがない。
「じゃあ、どうして今も逃げようとするんだよ!」
見え透いた言い訳に苛立ったのか、こっちに向かって腕を伸ばしてくる。
だけど、オウマ君の手が触れようとしたその瞬間、私の手が素早く動き、反射的にそれを弾いた。
「やっ──!」
バシッと辺りに音が響いたかと思うと、それっきり、オウマ君の動きが止まる。
それから少し遅れて、彼の顔が悲しそうに歪む。
「ご、ごめん──」
出てきたのは謝罪の言葉。だけど悪いのは、明らかに私だ。いきなり変な態度をとって、なのに何も話さない。こんなんで納得しろって方が無理な話だ。
「───っ!」
だけど私は、何も言う事ができなかった。一言も発っせないまま、彼に背を向けると、逃げるようにしてその場を去っていく。
そして、オウマ君の姿が完全に見えないところまで歩くと、立ち止まり、盛大に頭を抱えた。
「うわぁー、なんで逃げたりしたの! あそこはちゃんと謝らなきゃいけないとこでしょ。それに、魅了されてるってこと、ちゃんと言わなきゃいけないのに!」
やらかしてしまったと後悔しながら、思いっきり叫ぶ。
だけどその後、今度はそれとは反対に、小さな声で、ボソボソと呟く。
「でも、私まで魅了されたって知ったら、オウマ君どう思うのかな? ショックだろうな。それに、もうオウマ君の側にはいられなくなるかも」
口にした瞬間、もう何度目かも分からない胸の痛みを感じた。
ただ今回はいつもと少し違っていて、そこにドキドキはなく、ただ苦しいだけだ。
本当のことを言わなきゃいけないって、何度も思った。だけど、未だ言えない理由がこれだった。
私がオウマ君の側にいられたのは、魅了の力がきかない、唯一の女の子だったからだ。だからこそ、力を制御する特訓にも付き合えた。
その大前提が崩れてしまったら、もう彼の側にいられなくなってしまう。オウマ君にとって、私はもう必要なくなってしまう。
そう思うと、すごく怖かった
「こんな風に思うのも、魅了にかかってるせいなのかな?」
大きくため息をつきながら呟くけれど、その声に答えてくれる人は誰もいなかった。
オウマ君に謝って、ちゃんと全ての事情を話した方がいい。そうは思っても、再び話しかけることもできないまま放課後になり、憂鬱な気分で家に帰る。
そんな私を出迎えたのは、傍らにレイモンドを従え、満面の笑みを浮かべたお父さんだった。
「お帰り、愛しの娘よ。今日も良き日だったかい?」
「はぁ──」
質問の答えは、このため息だけで十分だろう。元々楽天的な人だったけど、オウマくんの家から資金援助を受けるようになって以来、いよいよ頭にお花畑ができたような浮かれっぷりだ。
もしこれで、実は依頼を果たせてませんなんて言ったら、どうなってしまうんだろう。
「何か用? 何もないなら、部屋に戻りたいんだけど」
悪いけど、今はとても付き合える気分じゃない。
いつもなら私がこんな対応をした時、お父さんはしょんぼりしながら引き下がる。だけど、今回は違った。
「待て待て、用ならあるぞ。実は、お前に新しいドレスを買ってやろうと思ってな。既に服屋も呼んである」
「ドレス? 別にそんなのいらないんだけど」
一応貴族の娘として全く必要ないわけじゃないけど、お母さんが昔着ていたお古がある。わざわざ新しく買わなくてもと思うのは、染み付いた貧乏性のせいだろうか?
そう思っていると、レイモンドが耳打ちしてくる。
「旦那様は、お嬢様の晴れ姿が見たいのですよ。ここはひとつ、親孝行だと思ってつきあってもらえませんか?」
「まあ、いいけど」
私だって、何が何でも嫌ってわけじゃない。頷くと、お父さんはますます上機嫌になる。
「それは良かった。ちょうど、もうすぐ聖夜祭があるからな。御披露目はちょうどいい」
「聖夜祭?」
ああ、そういえばそんなのもあったっけ。もうすぐ学校でもパーティーがあるけれど、今まですっかり忘れていた。