モテ男でインキュバスな彼は魅了の力を無くしたい
気は確かなの!?
かつては悪魔祓いの名家としてその名を馳せたアルスター家。だけどそんなもの、何代か前にはやめてしまってる。
そんな我が家に、悪魔祓いと見込んでお願いって、気は確かなの?
「えっと……それはつまり、祭事や祈祷と言った類いのものですかな。失礼ですが、それなら教会に依頼された方がいいのでは……」
お父さんがやんわりとした口調で言う。そうだよね、悪魔祓いっていっても、実際やることといえばそんなものだよね。
だけどそんな思いは、すぐに裏切られることになる。
「いいえ。今回依頼したいのはそういうものではなく、悪魔に対する専門家であるあなた方にしか頼めない事なんです」
「と、言いますと?」
だから、うちはとっくに専門家なんかじゃなくなってるんだけど。けど、彼がいったいどんな理由で悪魔祓いなんて胡散臭いものを訪ねてきたのかは気になったから、ここは黙って続きを聞いてみる。
「俺の中には、ある悪魔の力があるんです。その力はとても強くて、俺自身では抑える事はできない。だけど、高名な悪魔祓いであるアルスター家なら、この力を制御する方法を知ってるんじゃないか。そう思って、訪ねてきた次第です」
「…………へっ?」
オウマ君の言葉を聞いて、間の抜けた声が出る。そしてその後は、しばらくの間沈黙が続く。私もお父さんもレイモンドも、誰も何も答えられなかった。
悪魔の力とか、それを制御する方法とか、本気で言ってるの?
「あの……つまりそれは、どういうことでしょうか?」
とりあえず、もう少し詳しい話を聞こうと思ったのか、ようやくお父さんが沈黙を破る。
するとオウマ君は私の方へと目を向けた。
「えっと……アルスターさん?」
「はい、なんでしょう」
私より先に、お父さんが返事をする。いや、確かにお父さんもアルスターだけど、今オウマ君は明らかに私を見て言ってたじゃない。
「ややこしいから、私のことはシアンでいいよ」
「じゃあ、シアン。シアンから見て、学校での俺はどんなやつだ」
「どうって……」
何、その質問? そんなこと言われても、直接話したのは昨日が初めてなんだけど。
まあ、オウマ君は学校でも有名だから、だいたいのイメージで話せばいいかな。
「プレイボーイ、学校一のモテ男、ハーレム製造機ってとこかな」
「──っ! だよな、やっぱりそんな感じになるよな」
言った瞬間、オウマ君の肩が僅かに落ちる。もしかしたら言い方がお気に召さなかった?
けどうちの学校の生徒に聞いたら、だいたいそんな感想になると思うよ。
「じゃ、じゃあ聞くけど、俺の周りにそこまで女子がいること、不自然だって思った事はないか?」
「不自然ねえ……」
わざわざこんな事を聞くなんて、いったい何がしたいんだろう。モテ自慢かとも思ったけど、真面目に訪ねてくるその様子は、とてもそんな風には見えない。
何て答えようか迷ったけど、ここは素直に思った通りのことを口にする。
「いくらなんでも、ちょっとモテすぎじゃないかなって思ったことはあるかな」
オウマ君の顔がイケメンなのは間違いないし、家柄もいいから、女の子から人気が出るのはわかる。
だけどたとえどんなに顔が良くても家柄が良くても、人にはそれぞれ好みってものがあるし、モテるにしたって限度ってものがある。
なのにオウマ君の場合、多分学校にいるほとんどの女の子から好意を寄せられているんだよね。いくらモテる要素が多いからって、限度を超えてる気がするよ。
「シ、シアン、なんて事を。申し訳ありません。娘がとんだ失礼を……」
お父さんが慌てるけど、オウマ君本人は、怒るどころか満足そうに頷いた。
「いえ、いいんです。実際不自然なんですよ。女の子の、俺に対する好意や執着は。そしてその原因が、さっき言った、俺の中にある悪魔の力にあるんです。いや、力と言うか、血と言った方がいいのかも。俺の中には、先祖から受け継いだ悪魔の血が流れているんです」
「悪魔の血?」
悪魔と言う言葉が出てきたことで、ようやく元の話との繋がりが見えてきた気がする。けど、なんだかとんでもないことを言ってない?
お父さんもそう思ったのか、耐えきれなくなったように口を挟む。
「ちょっ、ちょっと待ってください。先祖から受け継いだ悪魔の血って、なんだかそれだけ聞くと、あなたが悪魔の子孫みたいに聞こえるのですが……」
やっぱりそうなるよね。
あまりに衝撃的な話。なのにオウマ君は、ハッキリとそれを肯定した。
「ええ、そうです」
いや、そうですって……
それを受け止められないから私達はこんなにも戸惑っているんだけど。だけどオウマ君の話はまだ終わらない。
「オウマ家の先祖は、インキュバスと言う種類の悪魔だったと伝えられています」
「インキュバス?」
私は別に悪魔に詳しいわけじゃないけど、インキュバスって悪魔なら、本や演劇でも時々登場するから、なんとなく知っていた。
「確か、女の人を誑かして生気を吸い取る、ザ・女の敵って感じの悪魔だったっけ?」
「…………まあ、そうだな」
簡単な説明に、嫌そうな顔で頷くオウマ君。女の敵なんて言われたのがショックだったみたいだけど、インキュバスのイメージってこんなものだと思う。
「女の敵ってのは置いておくとして、実際インキュバスには、女性から生気を吸い取る力と、あともう一つ、女性を魅了してしまう力がある。警戒されると、生気を吸い取るのも難しくなるからな」
そうそう。前に読んだ小説で出てきたインキュバスも、その魅了する力を使って、たくさんの女性に囲まれていたっけ。
たくさんの女性に囲まれる。なんだかそれって、どこかで見た事のあるような光景だ。
「まさかオウマ君がモテるのって、インキュバスだからって言うんじゃないよね?」
「その通りだよ。このインキュバス力のせいで、俺の近くにいる女性はみんな、理屈抜きで俺に好意を抱くようになるんだ。当人どころか、俺の意思も関係なくな。けど悪魔祓いやってるアルスター家なら、それを何とかする方法を知ってるんじゃないかと思って来てみたんだ」
これまたアッサリと認めてくれたね。こっちは、次々に出てくるとんでも発言のせいでパンク寸前だってのに。
「つまりこういうこと? オウマ君の家はインキュバスって悪魔の子孫で、普段モテているのは、そのインキュバスの力を抑えられないせい。それで、私達に何とかしてほしいと頼みに来た。これであってる?」
「ああ。だいたいそんな感じだ」
すごい滅茶苦茶なことを言ってる気がするけど、オウマ君は言いたいことが伝わったと、どこかホッとした様子だ。
一方私はというと、そんなそんな彼を見て、前に異国の本で読んだある言葉が浮かんだ。
「オウマ君。それってもしかして、中二病って言うんじゃ……」
「違う!」
どうやらオウマ君も、この言葉の意味を知っていたみたいだ。私が全てを言い終わらないうちに、怒号をかぶせてくる。
「こ、こらシアン! いくらなんでも、ヤバいくらい痛々しい中二病なんて、オウマさんに失礼じゃないか!」
大慌てなお父さん。いや、ヤバいくらい痛々しいとまでは言ってないんだけど。
だけど、自分の事を悪魔の子孫だとか、力が制御できないとか、思い切り中二病ワードだよ。
だけどこれは、オウマ君にとって大いに不満だったらしい。
「あなた達だって悪魔祓いなんだし、俺が本気で言ってる事くらいわかるでしょう!」
「いや、それなんだけどね……」
どうやらオウマ君は、自分が悪魔の子孫って設定はもちろん、私達のことも本物の悪魔祓いとして話を進めたいらしい。
ずいぶん遅くなってしまったけど、ここはハッキリ言っておいた方がいいよね。
「うちは、悪魔祓いじゃないから」
「えっ──?」
よほど信じられなかったんだろう。まるで時が止まったみたいに固まり、それからお付きの人を睨み付ける。
「なあ、話が違うぞ。アルスター家と言えば、悪魔祓いの一族じゃなかったのか?」
「はい。記録では、多数の悪魔を退治した功績を称えられ爵位を授かったとされているはずです」
そりゃ記録ではそうなっているけどさ、それって何百年も前の話だよ。
ここは、しっかり真実を教えてあげる必要がありそうだ。
「あのね、うちの先祖は確かに悪魔祓いだったかもしれないよ。だけど、そんなのもうとっくに止めてるよ。先祖の功績だって、ホラ話なんじゃないかって思ってる」
「なっ…………」
絶句するオウマ君。さらに、お父さんが追い討ちをかける。
「そもそも、悪魔なんて非現実的なもの、本当に存在するのですか?」
父さんも私と同じで、オカルト的なものをほとんど信じていないんだよね。
「ここに来たのは、間違いだったかも……」
そんな私達親子を見て、オウマ君は絶望的な表情で頭を抱えていた。
そんな我が家に、悪魔祓いと見込んでお願いって、気は確かなの?
「えっと……それはつまり、祭事や祈祷と言った類いのものですかな。失礼ですが、それなら教会に依頼された方がいいのでは……」
お父さんがやんわりとした口調で言う。そうだよね、悪魔祓いっていっても、実際やることといえばそんなものだよね。
だけどそんな思いは、すぐに裏切られることになる。
「いいえ。今回依頼したいのはそういうものではなく、悪魔に対する専門家であるあなた方にしか頼めない事なんです」
「と、言いますと?」
だから、うちはとっくに専門家なんかじゃなくなってるんだけど。けど、彼がいったいどんな理由で悪魔祓いなんて胡散臭いものを訪ねてきたのかは気になったから、ここは黙って続きを聞いてみる。
「俺の中には、ある悪魔の力があるんです。その力はとても強くて、俺自身では抑える事はできない。だけど、高名な悪魔祓いであるアルスター家なら、この力を制御する方法を知ってるんじゃないか。そう思って、訪ねてきた次第です」
「…………へっ?」
オウマ君の言葉を聞いて、間の抜けた声が出る。そしてその後は、しばらくの間沈黙が続く。私もお父さんもレイモンドも、誰も何も答えられなかった。
悪魔の力とか、それを制御する方法とか、本気で言ってるの?
「あの……つまりそれは、どういうことでしょうか?」
とりあえず、もう少し詳しい話を聞こうと思ったのか、ようやくお父さんが沈黙を破る。
するとオウマ君は私の方へと目を向けた。
「えっと……アルスターさん?」
「はい、なんでしょう」
私より先に、お父さんが返事をする。いや、確かにお父さんもアルスターだけど、今オウマ君は明らかに私を見て言ってたじゃない。
「ややこしいから、私のことはシアンでいいよ」
「じゃあ、シアン。シアンから見て、学校での俺はどんなやつだ」
「どうって……」
何、その質問? そんなこと言われても、直接話したのは昨日が初めてなんだけど。
まあ、オウマ君は学校でも有名だから、だいたいのイメージで話せばいいかな。
「プレイボーイ、学校一のモテ男、ハーレム製造機ってとこかな」
「──っ! だよな、やっぱりそんな感じになるよな」
言った瞬間、オウマ君の肩が僅かに落ちる。もしかしたら言い方がお気に召さなかった?
けどうちの学校の生徒に聞いたら、だいたいそんな感想になると思うよ。
「じゃ、じゃあ聞くけど、俺の周りにそこまで女子がいること、不自然だって思った事はないか?」
「不自然ねえ……」
わざわざこんな事を聞くなんて、いったい何がしたいんだろう。モテ自慢かとも思ったけど、真面目に訪ねてくるその様子は、とてもそんな風には見えない。
何て答えようか迷ったけど、ここは素直に思った通りのことを口にする。
「いくらなんでも、ちょっとモテすぎじゃないかなって思ったことはあるかな」
オウマ君の顔がイケメンなのは間違いないし、家柄もいいから、女の子から人気が出るのはわかる。
だけどたとえどんなに顔が良くても家柄が良くても、人にはそれぞれ好みってものがあるし、モテるにしたって限度ってものがある。
なのにオウマ君の場合、多分学校にいるほとんどの女の子から好意を寄せられているんだよね。いくらモテる要素が多いからって、限度を超えてる気がするよ。
「シ、シアン、なんて事を。申し訳ありません。娘がとんだ失礼を……」
お父さんが慌てるけど、オウマ君本人は、怒るどころか満足そうに頷いた。
「いえ、いいんです。実際不自然なんですよ。女の子の、俺に対する好意や執着は。そしてその原因が、さっき言った、俺の中にある悪魔の力にあるんです。いや、力と言うか、血と言った方がいいのかも。俺の中には、先祖から受け継いだ悪魔の血が流れているんです」
「悪魔の血?」
悪魔と言う言葉が出てきたことで、ようやく元の話との繋がりが見えてきた気がする。けど、なんだかとんでもないことを言ってない?
お父さんもそう思ったのか、耐えきれなくなったように口を挟む。
「ちょっ、ちょっと待ってください。先祖から受け継いだ悪魔の血って、なんだかそれだけ聞くと、あなたが悪魔の子孫みたいに聞こえるのですが……」
やっぱりそうなるよね。
あまりに衝撃的な話。なのにオウマ君は、ハッキリとそれを肯定した。
「ええ、そうです」
いや、そうですって……
それを受け止められないから私達はこんなにも戸惑っているんだけど。だけどオウマ君の話はまだ終わらない。
「オウマ家の先祖は、インキュバスと言う種類の悪魔だったと伝えられています」
「インキュバス?」
私は別に悪魔に詳しいわけじゃないけど、インキュバスって悪魔なら、本や演劇でも時々登場するから、なんとなく知っていた。
「確か、女の人を誑かして生気を吸い取る、ザ・女の敵って感じの悪魔だったっけ?」
「…………まあ、そうだな」
簡単な説明に、嫌そうな顔で頷くオウマ君。女の敵なんて言われたのがショックだったみたいだけど、インキュバスのイメージってこんなものだと思う。
「女の敵ってのは置いておくとして、実際インキュバスには、女性から生気を吸い取る力と、あともう一つ、女性を魅了してしまう力がある。警戒されると、生気を吸い取るのも難しくなるからな」
そうそう。前に読んだ小説で出てきたインキュバスも、その魅了する力を使って、たくさんの女性に囲まれていたっけ。
たくさんの女性に囲まれる。なんだかそれって、どこかで見た事のあるような光景だ。
「まさかオウマ君がモテるのって、インキュバスだからって言うんじゃないよね?」
「その通りだよ。このインキュバス力のせいで、俺の近くにいる女性はみんな、理屈抜きで俺に好意を抱くようになるんだ。当人どころか、俺の意思も関係なくな。けど悪魔祓いやってるアルスター家なら、それを何とかする方法を知ってるんじゃないかと思って来てみたんだ」
これまたアッサリと認めてくれたね。こっちは、次々に出てくるとんでも発言のせいでパンク寸前だってのに。
「つまりこういうこと? オウマ君の家はインキュバスって悪魔の子孫で、普段モテているのは、そのインキュバスの力を抑えられないせい。それで、私達に何とかしてほしいと頼みに来た。これであってる?」
「ああ。だいたいそんな感じだ」
すごい滅茶苦茶なことを言ってる気がするけど、オウマ君は言いたいことが伝わったと、どこかホッとした様子だ。
一方私はというと、そんなそんな彼を見て、前に異国の本で読んだある言葉が浮かんだ。
「オウマ君。それってもしかして、中二病って言うんじゃ……」
「違う!」
どうやらオウマ君も、この言葉の意味を知っていたみたいだ。私が全てを言い終わらないうちに、怒号をかぶせてくる。
「こ、こらシアン! いくらなんでも、ヤバいくらい痛々しい中二病なんて、オウマさんに失礼じゃないか!」
大慌てなお父さん。いや、ヤバいくらい痛々しいとまでは言ってないんだけど。
だけど、自分の事を悪魔の子孫だとか、力が制御できないとか、思い切り中二病ワードだよ。
だけどこれは、オウマ君にとって大いに不満だったらしい。
「あなた達だって悪魔祓いなんだし、俺が本気で言ってる事くらいわかるでしょう!」
「いや、それなんだけどね……」
どうやらオウマ君は、自分が悪魔の子孫って設定はもちろん、私達のことも本物の悪魔祓いとして話を進めたいらしい。
ずいぶん遅くなってしまったけど、ここはハッキリ言っておいた方がいいよね。
「うちは、悪魔祓いじゃないから」
「えっ──?」
よほど信じられなかったんだろう。まるで時が止まったみたいに固まり、それからお付きの人を睨み付ける。
「なあ、話が違うぞ。アルスター家と言えば、悪魔祓いの一族じゃなかったのか?」
「はい。記録では、多数の悪魔を退治した功績を称えられ爵位を授かったとされているはずです」
そりゃ記録ではそうなっているけどさ、それって何百年も前の話だよ。
ここは、しっかり真実を教えてあげる必要がありそうだ。
「あのね、うちの先祖は確かに悪魔祓いだったかもしれないよ。だけど、そんなのもうとっくに止めてるよ。先祖の功績だって、ホラ話なんじゃないかって思ってる」
「なっ…………」
絶句するオウマ君。さらに、お父さんが追い討ちをかける。
「そもそも、悪魔なんて非現実的なもの、本当に存在するのですか?」
父さんも私と同じで、オカルト的なものをほとんど信じていないんだよね。
「ここに来たのは、間違いだったかも……」
そんな私達親子を見て、オウマ君は絶望的な表情で頭を抱えていた。