だから、好きとは言わない

プロローグ

 ずっと好きだったのに。
 この世には彼しかいないんじゃないかと思うくらいに、あたしの心の中は彼だけだったのに。
 大恋愛だと思っていた。
 この人と結婚するんだって、本気で思っていた。
 そろそろプロポーズしてくれてもいいのにな、そんなことを期待するほどに。

「ごめん、実智(みち)。俺、結婚するんだ」

 付き合って十年。
 彼はあたしよりも五つ年下の同じ会社の後輩と結婚した。彼女のお腹にはすでに赤ちゃんがいるらしい。
 別れるつもりも、別れたつもりもなかった。
 あたし、別れようって言われた?

 仕事が楽しくて、会う時間は確実に減っていた。
 だけど、あたしは幸せだった。
 分かり合えていると思っていたのに。
 当たり前の様に来ると思っていた未来が、突然幕を閉じた。

 もう、悲しむのもバカらしい。

 今更、彼じゃない人と恋愛するのも……めんどくさい。
 一人で自由気ままに生きているのが一番楽な気がする。
 それにさ、傷つきたく無いんだよ。

 あたしはもう、恋愛は諦めた。




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