だから、好きとは言わない

12 好きとは言わないとは、言わない

 あれから数週間が過ぎて、マンションの手続きも順調に済んであとは引越しの日を待つばかりとなっていた。

 いつも通りに仕事をこなして、お昼休憩に入ると外へと出た。
 日差しが強くて、夏に近づいているのを感じる。
 なるべくビルの日陰を歩いて、目的地まで向かう途中で、スマホが鳴った事に気がついた。

》今着いたよ

 友香からのメッセージ。

 午前中にランチを一緒にしない? と、友香からメッセージが届いていた。きっと、あの嬉しい報告が聞けるんじゃないかと、寛人から聞いたことは内緒にしておかなければいけないのだが、どうにも顔が緩んでしまう。

 友香が待ちに待った妊娠だから。あたしだってこんなに嬉しいのに、きっと友香はその倍以上に嬉しいに決まっている。
 いつもの待ち合わせ場所、フレーバフルに着くと、ガラス越しに友香の姿を発見して、その顔が幸せそうに緩んでいるのを見て、あたしはほら、やっぱり! っと、急いで店内へ。

 店員さんに、待ち合わせをしていることを告げて、友香のいるテーブルへと向かった。

「お待たせ、友香」
「あ、実智お疲れー、ごめんね、急にランチ誘って。大丈夫だった?」
「うん、全然大丈夫だよ」
「良かった。あ、あのね、えっと、とりあえず頼もっか?」

 メニューを開いて、友香が焦る様に言うから、あたしは微笑んで頷く。注文をし終えて、改まった様に一度咳払いをした友香に、あたしまで少し緊張してきてしまう。

「えーっとですね、この度、私、赤ちゃんを授かることができました! って言う報告がしたくて……」

 照れて笑う友香に、思わず目頭が潤んでしまう。
 寛人から聞いて、知っていたはずなのに。

 それでも、友香本人からの報告がこんなに嬉しいと感じる。心から、おめでとうって、思った。

「やだ! 実智泣かないでよーっ、あたしも泣けちゃうじゃん」
「おめでとう、友香。大事にしてね」
「うん、ありがとう」

 友香と清春さんの元にやって来た小さな小さな命は、懸命に力強く動いているみたいだ。まだまだ人の形にすらなっていないエコー写真を愛おしそうに見つめる友香が、本当に幸せそうで、あたしもいつか、と、そう思ってしまう。

「あのね、友香、あたしもね」

 寛人とのことも色々あったけれど、そのおかげで自分の気持ちをちゃんと見つめ直すことができたんだ。友香の後押しだってあったから。

「望くんと付き合うことになって、一緒に住むことになりました」
「え! ほんとに!? おめでとうっ!」

 ギュッと両手を握られて、自分のことよりも喜んでくれる友香に、あたしは嬉しくなる。

「いやー、めでたいこと続きじゃないっ! あー、これ、飲めないのが辛いわ」
「あ! 絶対ダメだからね」
「もー、分かってます。って言うかね、つわりなのかな? お酒の匂いが全くダメなんだよね。ほら、この前寛人がくれたスパークリング日本酒! 
 あんなに美味しいと思ったのにさ、あたしが飲めないから開いてた分、清春くんが飲んだんだけど、その時の匂いで思い切りリバースしたし、しばらく頭痛くてさ。匂いだけでだよ? これ、あたし産んだらもうお酒のめないんじゃないかと思うとなんか寂しいのよね。あ、でも、お祝いはやろうよ!」

 妊婦だろうと、友香は友香だ。テンションもいつも通りで安心する。
「あ、あとね、寛人がさ、めちゃくちゃ美人な女の子と二人で歩いてるの見かけたって、清春くんが言ってたんだよねー。実智なんか聞いてない?」
「うわ、情報漏れるの早っ」

 清春さん、いつ見たんだろう。
 あたしもあれ以来寛人には倉橋さんとどうなったのか聞けていないんだよね。
 倉橋さんからメッセージが届くのは全然いいんだけど、こちらからわざわざ、その後どうなったのー? なんて聞くのも、なんだか野次馬な気がして踏み込めずにいる。

 望くんは倉橋さんには一切興味がない様子で、話にも出てこないし。
 もしかしたら、二人は付き合うことになったのかもしれない。それならそれでみんな幸せな気がする。

「寛人ね、望くんと同期の子に惚れられててね」
「え!! そーなの? やだ、やるじゃん、寛人っ」
「本当に美人で可愛い子なんだ。あたしの目の前で寛人に告白するくらい度胸あるし、たぶん上手くいったのかも?」

「……実智の目の前で?」

「……うん」
「ふーん。そっか、それは、本気だね」
「……うん……?」

 ランチのパスタグラタンをフォークに絡めながら、友香がチラリとあたしを見る。

「寛人ってさ、実智のこと好きだったよね?」

 口に運ぶ途中で、あたしは開けた口を閉じてフォークを皿へと戻した。

「え……知ってたの?」
「うーん……やっぱり」

 困った様に口角を上げる友香に、あたしは自分が発した言葉でそれを決定付けたことに気が付いた。

「いや、あたしもどうなのかなぁっとは思ってたのよ。寛人って離婚歴あるし、それを分かってるのってあたしか実智だけだし、実智のことは友達としか見てない様な気もしてたけど、最近はよく二人で飲んでたみたいだから、この前はあたし先に帰って、二人がどうなるのかなぁって仕掛けたんだけど。そこはやっぱり、上手くはいかなかったか。と、思ってさ」

「え……あの時そんなこと思ってたの?」

「うん。だってさ、望くんもいいけど、あたし、寛人にも幸せになってほしいんだもん。実智のこと好きなら、実智とくっついてくれたらあたしも嬉しい事この上なし」

「……ごめん」

 寛人の気持ちを知ったのと、望くんへの気持ちに決意を固めたのが、同じタイミングだった。
 あたしが選んだのは、ずっと支えてくれていた寛人じゃなくて、突然現れた望くん。

「謝る事ないよ。実智の決断を攻めてるつもりはないし、あたし、望くんと上手く行って良かったなってちゃんと思ってるからね。ただ……」

 小さくため息を付く友香のことが気になる。

「その若い子さ、寛人の役職とかお金目当てとかじゃなきゃいいなって。清春くん曰くめちゃくちゃ美人でスタイル良くて、騙されてるんじゃない? って心配しててさ。あの清春くんがだよ? あたし以外の女褒めることなんて滅多にないのにさ」

 眉間に皺を寄せて、友香が怒りを見せる。

「あ、それは、大丈夫だと思う」

 倉橋さんは、本気で寛人のことが好きだと思う。あの時それは感じた。

「清春さんに、寛人に連絡取ってみてくださいって言ってよ」
「え! 寛人に電話なんてしたことないでしょ? 清春くん、寛人の番号知ってんのかな?」

 悩む友香に、あたしは唖然とする。

「え、寛人に真っ先に赤ちゃん出来たって報告したの、清春さんだよ?」
「…………はぁ?」

 あたしの言葉に、友香の表情が一気に崩れて困惑し始める。

「え? なに? 実智もしかして、あたしの妊娠知ってたの?」
「うん。ごめん」
「なにそれっ! だからかー! もっとびっくりするのかと思ったら、いきなりうるうるして、今考えればようやく聞けたーって思っての涙だったんだよね? うわー、まじか。清春くん!」

 追加で注文したナッツたっぷりシフォンケーキとホットミルクを目前に、がっかりと肩を落とす友香。

「あはは、でも、清春さん寛人のこと心配してくれてるんだね。心強い先輩がいるなら、きっと若い子との恋愛も大丈夫じゃない?」
「いや、当てになんないよー、清春くんは」

 苦笑いでケーキの皿の横に置かれたチョコレートソースを軽く回しかける。

「まぁ、もう大人なんだし、あたし達の出る幕じゃないね、あたたかく見守りましょうか」
「うん、そうだね」

 お互いに微笑んで、寛人の幸せを願うことにした。

 外は灼熱の太陽。
 夏本番を迎えた空は入道雲が立ち昇る。今年の夏は暑い。たぶんこれ、毎年言っている気がする。とてもじゃないけれど、じっと立っているだけでも汗が滲んでくるほどの夏日。
 見上げる首が落っこちてしまうんじゃないかと思うくらいに高い、高層マンション。今日から、あたしと望くんの新居だ。
 あらかじめ頼んでおいた引越し業者さんが荷物を運び入れ終わって帰って行った。

 部屋の中はクーラーが効いていて、まるで天国のように快適だ。

 窓からの景色は最高で、それが夜の夜景に変われば一気にムードが増す。キッチンは広くて使いやすいし、走り回れるくらいに広いリビング。

「こら、そこ、走らない」

 パタパタと右へ左へと駆け回っているのは望くん。

「実智ちゃん、こっちの箱も開けて良いの?」
「うん、お願い」

 大きめのダンボールを指差す望くんに頷いて、あたしも次の箱を開ける。

 二人で選んだ家具を配置して、ようやく落ち着いてソファーに並んで腰掛けた。

「あー、このソファーやっぱ最高だね」
「一番悩んで買ったからね」

 ふかふかだけど柔らか過ぎず、二人で座るのにもゆったりとした生成色のソファー。

「お茶でも淹れようか」

 立ちあがろうとしたあたしを引き寄せる望くんの腕に、あたしは抱きしめられる。

「いい。ちょっと疲れたから充電させて」

 望くんの膝の上に乗せられて、胸元に顔を埋めてくる望くんは甘えるように囁く。
 目を閉じて、幸せそうな笑顔で笑う表情が、可愛くて愛おしい。

「あー、早く冴島さんポジションになりたいっ! 今のままじゃどう頑張っても実智ちゃんより稼げないもんなぁ。俺」

 はぁ。と切なげにため息を吐き出すと、潤んだ瞳が見上げてくる。

「今は頼っちゃってるけど、待っててね、あと一年……いや、あと少し、俺が実智ちゃんのこと支えていけるように、頑張るから」
「……望くん」

 まだ殺風景な部屋の中。
 真っ直ぐに向けられた瞳は、本当に有言実行出来そうに未来を見据えて煌めく。

 望くんは寛人の右腕になるくらいに仕事に打ち込んで、しっかり会社の中になくてはならない存在にまでのし上がったらしい。
 あたしにはその努力が見えることはなかったけれど、頑張っているなとは感じていた。

 家に帰ってくればくたくたなくせに、いつもの可愛くて甘えたがりの望くんで、あたしはたくさんたくさん愛された。
 隣にはもちろん寛人が住んでいて、たまに、いや、結構な頻度で望くんは仕事の関係で寛人の家に行くことが多かった。
「冴島さんさ、倉橋とどうなったんだろう」

 今まで気にしたことなどなかった望くんが、その日、寛人の家から帰ってくるなり顎に手を置き、あたしに聞いてきた。

「たまに、家には来てるみたいだよ。鈴ちゃんからメッセージが来るんだよね。あ、ほら、この前夕飯に出した、ほうれん草の胡麻和えとタケノコの煮物、鈴ちゃんからのお裾分けだったんだよ」

 寛人のことで色々とメッセージが送られてくるうちに、倉橋さんから鈴ちゃん呼びに変わるくらいに、鈴ちゃんとは仲良くなっていた。
 たぶん、あたしよりも鈴ちゃんの方が今や寛人のことを知っているのかもしれない。

 だけど、決定的な付き合い始めましたとか、進展がありましたとかの報告は、未だない。

 寛人はどんだけガードが硬いんだ。もう許したって良いんじゃないかって思うけど。

「今行ったらさ、前は置いてなかった物が結構そこら辺に配置されてたんだよね。考えてみれば、最近倉橋機嫌もいいし、もしかしたらあの二人……」

 スーツを脱ぎながら望くんが、ニコッと笑顔を向けてくる。

「ま、そうしたら俺は嬉しいなぁ。冴島さんからのチクチクした嫉妬がなくなるし、実智ちゃんとのこの幸せな生活を堂々と話せるしっ」

 チクチク嫉妬されてたのか。

「先にシャワー浴びてくるね」と、望くんはバスルームへと向かっていった。
 そして、まだ寛人に遠慮してたんだな、望くん。

 会社ではずっとそばにいるような存在まで上り詰めたみたいだし、帰ってきてからも二人で会っていることが多いし、あたしよりもなんか、寛人と仲良くなっている気がするんだが。

 仕事だから仲が良いとかではないのかと思ってたけど、ちゃんと望くんも寛人と鈴ちゃんのことは気になっているみたいだし。
 ほんと、寛人には幸せになってもらいたい。

 冷蔵庫からビールを取り出して、ソファーに座って栓を開ける。
 軽いプシュッとした音に、乾いた喉を通る一口目が美味しい。
 スマホを手に取り、ビール片手に画面を表示すると、友香からのメッセージが来ているのが分かった。

》実智見てー! 清春くんてば気が早過ぎる

 笑顔のスタンプが送られたかと思うと、写真が次々と上がってくる。
 クリーム色のロンパース、きりんの歯固め、シャカシャカと音が鳴りそうなおもちゃ、彩りも形もさまざまなスタイ。

「もう、めちゃくちゃ楽しみなんじゃん」

 思わずあたしは笑いながら呟いてしまう。

「ん? なにが?」

 ソファーの後ろから伸びてきた腕にギュッと包まれて、いつものシャンプーの香りがあたしを纏う。
「あ、望くん。ほら見て、友香から送られてきたの」

 あたしはくるりと望くんの方を向いて、画面を見せた。

「可愛いよね、赤ちゃんのだって。清春さんが張り切って買ってきたみたい」
「俺も……」

 あたしの手からビールの缶を取り上げて、望くんが一口飲んだ後にキスをする。
 ほろ苦い、優しい唇。あたしが一番好きなキス。
 スマホを持つ力が抜けて、ソファーにそっと下ろすと、望くんの首に腕を回す。
 徐々に呼吸が短くなって漏れて、唇がようやく離れると、望くんが微笑む。

「俺も実智ちゃんとの子供早く欲しいな」
「……ビール、飲めなくなるよね……」
「え! それ言っちゃう? 我慢してよ。俺も付き合うから」

 ソファーを越えてきた望くんが、あたしをそっと倒すと、また幾つも落ちては触れてくる唇。

「望くん、あたしまだシャワーしてない」
「ん、大丈夫」
「……い、いや、あたしが大丈夫じゃないし……」
「……もう。実智ちゃん帰ってきたら即シャワー浴びてて! いっつも俺お預けじゃんっ」

 ぷくっと膨れる頬と怒る顔が可愛い過ぎる! なんて、心の中で思っていることは言わずに、あたしはキッチンへと向かう。

「シャワーあっちだよ」

 バスルームの方を指差す望くんに苦笑いをしつつ、「ご飯食べよー」と、あたしは食器を取り出し始めた。

「えーっ」

 不服そうな望くんにあたしは笑う。

 隙あらば、あたしを離してくれない望くん。 そりゃ、あたしだって引っ付いていたい。

 だけどさ、毎日そう言うわけにはいかないんだよ。はっきり言って、望くんの体力には負けるんです。だからね、望くんの大きな愛には負けてしまうかもしれないけれど、お返しする時には、全身全霊をかけて、望くんのことを愛するから、だから今はそれで、許して欲しいな。
「あ、美味い。また腕あげたよね、実智ちゃん」
「そう? ありがとう」

 夜景を見ながら並んで食べる夕飯も毎日の楽しみになった。仕事はほどほどに。だから、料理もいつもよりも手を掛けて望くんに美味しいって言ってもらえるように勉強してる。
 それを素直に認めてくれる瞬間が、なによりも幸せだ。

「俺が片付けておくから、実智ちゃんお風呂良いよ。ほら、行っていって」

 食器を下げることもさせてくれずに急かされて、あたしは笑ってしまう。

「明日休みだねー、どこ行く?」
「まだ片付けもあるし、家でのんびり?」
「うーん。望くん意外とインドア派だよね」
「ん? そんなことないよ。外に行ったらさ、あんまり実智ちゃんにベタベタできないじゃん?」
「うー……やっぱそれかぁ」
「うん、俺の頭ん中そればっかだよ?」
「……だろうね」

 にっこにこで食器を洗っている望くんに、あたしは呆れた目を向ける。

 そして、望くんの横まで近寄ると、

「望くん、もう少し大人になってね、そうしたら、またプロポーズしてね」

 そっと耳元で囁いて、あたしはバスタオルを抱えてリビングを去った。

「あーーー!! 俺もう大人なのにっ!!」

 叫ぶ望くんの声に、あたしは笑ってしまった。

 結婚する前にこんな素敵なマンションを手に入れて、可愛い可愛い旦那候補が現れて、毎日毎日愛されていて、あたし今、とてつもなく幸せだ。
 この先に何かがあるとしたって、望くんの笑顔も言葉もあたしに向かってくるなにもかもが、大丈夫。そう思わせてくれる。

 今度、二人で実家に帰ろう。
 そして、お母さんをびっくりさせよう。

 湯船に浸かりながら、そんなことを考えてにやけてしまった。
 リビングに戻ると、ソファーに座って望くんは誰かと通話中。

「はい、絶対に。え? 当たり前じゃないですか! いや、そんなの関係ないですから。また、決意が固まったら会いに行きますね。夜分にすみません。どうしても、今言いたくて。はい、じゃあ、失礼します」

 大きなため息を吐き出した望くんに、あたしはタオルでまだ乾き切っていない髪を拭きながら、冷蔵庫から取り出してきた冷えたビールを渡す。

「はい」
「わっ! びっくりした」
「ふふ、なにそんなに慌てて」
「いや、別に。ってか、これ、飲む前に」

 自分の分と、あたしの手にしていたビールの缶まで取り上げられて、何もなくなった両手を握りしめられた。

「……望くん?」

「たぶん、来年には上に上がれるんだ。さっき、冴島さんに今のポジションを任せたいって言われて」
「……え!? いきなり?」

「いや、実智ちゃんからみたらいきなりかもしれないけど、俺けっこう頑張ってるんだよ? 見えないとこで。まぁ、自分で言っても説得力ないかもだけど。
 そしたらさ、俺堂々と実智ちゃんの両親に挨拶に行けるから。だから、今すぐは無理だけど、あと少し。
 冬が終わって春が来るまで、もう少し頑張るから、そしたら、その時は改めて言わせてください。大好きな実智ちゃんに、俺の最大級の愛の言葉」

 付けっぱなしにしていたテレビ。低い音量で流れてくるメロディは、切なくて甘いラブバラード。狙って歌い始めたんじゃないかと思うくらいにタイミングよく聞こえてきたその音に、気持ちがさらに高まる。

 望くんとの夜は尽きることが無くて。
 あたしの体力なんてお構いなしに愛される。
だけど、ちゃんと優しくて、愛おしくて。
 朝が来なければ、ずっと続けば、なんて望んでしまう自分がいる。

 大人になれていないのは、望くんだけじゃない。
 大人なふりをしているあたしよりも、きっとずっと、望くんはすべてを分かっている。

 絡まる指。
 繋がる全てを、望くんに捧げる。

 もう大丈夫。

 あたしは望くんとずっとずっと、一緒にいたい。

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