今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
 ラウニは一つに束ねた赤茶色の髪を手櫛で整えてから深く息を吐き、目の前の扉を叩いた。
 やはりオリベルと会うのであれば、少しは見目を整えておきたいという気持ちが無意識に働いたのだろう。
 ――トントントントン。
 だが返事はない。この時間であればオリベルは執務室にいるはず。
 だからこの書類を頼まれたのだ。何がなんでも今日中に目をとおしてもらうようにと、事務官長からも言われている。遅くても明日まで、だそうだ。
 つまり、この書類にオリベルから押印をもらわなければ、ラウニは帰れない。
 もう一度扉を叩くが、やはり中からの返事はない。
 ラウニが扉のノブに手をかけると、ひやっとした感覚が手のひらを覆う。なぜか、不安な気持ちが心の中にポツンと生まれた。
 どうやら扉に鍵はかけられていない。となれば、中に彼はいるはずなのだが――。
「失礼します。事務官のラウニ・バサラです」
 そう声をかけて、ラウニは勝手に室内に入る。オリベルはこのようなことで怒りはしない。それが許されるのもラウニだからだ。
 部屋が開いていたにもかかわらず、ここにオリベルの気配はしなかった。彼の執務用の机の上には、山のように書類が積み重ねられている。
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