極悪人は仮面越しのまま彼女を溺愛する


ある夢を見た。

その夢の中には御影が出てきて、眠っている私に口づけするというハナシ。


───ちゅ。


大きな空間に、唇と唇が合わさる音が小さく響く。


「お嬢様、今夜もお守り致します」


すやすやと眠っている桃菜にキスをした御影は、少し冷淡な微笑を浮かべてそう言った。


 ❁


翌朝。

ミラー越しに自分を見ると、首筋に赤い跡があった。


これ、なんだろう……虫にでも刺されたのかな。


「ねえ御影。これ、なんだと思う?」


近くに佇んでいた御影に訊ねる。


「ん、なんでしょうか。虫刺されではないですか?」


いつもならここで慌てて絆創膏でも貼ってくれそうなのに、御影は微動だにせず私に向かって微笑んでいる。


それに少し違和感を覚えた私は、自分で絆創膏を貼ろうと救急箱に手を伸ばすけれど───


「お嬢様、早く支度をしないと学校に遅刻してしまいます」


私の手を制して、そう言った御影。

< 12 / 32 >

この作品をシェア

pagetop