極悪人は仮面越しのまま彼女を溺愛する
「桃菜、その顔は誰か思い当たる人がいるのね」
茉奈がすっと目を細めて訊いてくる。
だけど私は次の言葉を発せない。
茉奈は私が本当はお嬢様なのだと言ったらどんな反応をするだろうか。
今までみたいに気さくに話しかけてくれる……?
態度は変わらないだろうか。
そんな不安が心を蝕んで、私に打ち明けることを止めさせる。
「いない、よ……」
私は茉奈に初めて嘘をついた。
胸が痛い。だけどこれは仕方のないことなんだと割り切るしかない。
茉奈は私を探るような視線で見てきたけれど、最終的には納得した口調で頷いた。
「そっか。じゃあただの虫刺されかもね」
「……うん」
私は小さく頷いて俯いた。
するとチャイムが鳴り、担任が教室に入ってくる。
私たちはそこで話をやめ、お互い前に向き直った。
茉奈に嘘をついてしまったことが申し訳なくて、私は今日一日ずっとそのことばかり考えていた。