極悪人は仮面越しのまま彼女を溺愛する


試験が終わり、掃除に向かう。

その時、前から背の高い男が歩いてくるのが視界の端に映る。


フードに覆われていて顔は見えない。

その男の子がまとう雰囲気がなんだか異様で、私は目を逸らした。


少し緊張した面持ちでその男とすれ違う。

ちらっと男の横顔を見やると、驚いたことに口角が上がっていた。


何に対しての笑みなのか分からなくて、ますます気味が悪くなった私は足早にその男から離れた。


 ❁


[御影side]


お嬢様に危険が近づいている。

そう感じ取ったのは、昨日の放課後。


桃菜お嬢様が乗車するところを影からこっそりとうかがう男の姿があったのだ。

その男は制服を着ていて、南高校の生徒だとすぐに分かった。


俺がそいつを睨み返すと影は消え、夕方の闇に溶けていった。


「お嬢様、おかえりなさいませ」


そう言って深く頭を下げる。

お嬢様はそんな私の横を通り過ぎ、何も言わずに車に乗った。


お嬢様も何か感じ取っているのだろう。

聡明な方だ。気づかない方がおかしい。


桃菜お嬢様の身に、確実に危険が迫ってきている──。

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