極悪人は仮面越しのまま彼女を溺愛する
「──ねえ、桃菜。その赤髪の男って、赤狼くんだったりしない?」
「……赤狼?」
「うん、そう。この学校で赤髪と言ったら、赤狼くんしかいないよ」
───赤狼。
言われてみれば、確かに1度は耳にしたことのある名前だ。
「ウワサによるとね、赤狼くんってある暴力団のメンバーらしいよ」
私の耳元に唇を寄せてこそっと教えてくれたその内容に、私は目を見開いた。
「それ、ほんと……?」
「うん。まじまじ」
茉奈の話を聞いて、私の頭の片隅に〝暴力団〟という言葉が残った。
その時の私は現状を甘く考えていて、これから起こることまで思慮することができていなかった。
そのせいで───悲劇は生まれるんだ。
❁
校門を出ていつもの場所に向かう。
だけどそこに御影の姿はなくて、私は眉をひそめた。
どうしたんだろう。いつもだったらもう着いている時間なのに。