極悪人は仮面越しのまま彼女を溺愛する


「──ねえ、桃菜。その赤髪の男って、赤狼(せきろう)くんだったりしない?」

「……赤狼?」

「うん、そう。この学校で赤髪と言ったら、赤狼くんしかいないよ」


───赤狼。

言われてみれば、確かに1度は耳にしたことのある名前だ。


「ウワサによるとね、赤狼くんってある暴力団のメンバーらしいよ」


私の耳元に唇を寄せてこそっと教えてくれたその内容に、私は目を見開いた。


「それ、ほんと……?」

「うん。まじまじ」


茉奈の話を聞いて、私の頭の片隅に〝暴力団〟という言葉が残った。

その時の私は現状を甘く考えていて、これから起こることまで思慮することができていなかった。


そのせいで───悲劇は生まれるんだ。


 ❁


校門を出ていつもの場所に向かう。

だけどそこに御影の姿はなくて、私は眉をひそめた。


どうしたんだろう。いつもだったらもう着いている時間なのに。

< 19 / 32 >

この作品をシェア

pagetop