極悪人は仮面越しのまま彼女を溺愛する
不穏な影


「お嬢様、あと五分で学校に遅刻してしまいますよ」


耳元で囁かれた低音ボイスに、私の瞼がぴくりと動く。


「お嬢様、起きてください。このままでは本当に遅刻確定です」


今度は優しく肩を揺さぶられる。


「んー、まって……あと五分、」

「その五分が命取りなのです。それに、奥方様には今日は試験初日日だと伺っております」


〝試験初日日〟

そんなワードが聞こえて、私は一気に目が覚めた。


「……っ、そうだった、今日、テスト! やばい、今何時なの⁉」

「只今の時刻は……」

「こんな時にまで敬語を使うんじゃないわよっ。もういい、急いで準備するから御影は出てって!」


いつもの二倍の速度でベッドから飛び起きて、部屋の洗面所に向かう。


洗顔を済ませ、適当に保湿クリームを塗りたくった後、光の速さで制服に着替えた。


私が部屋を出ると、すぐ目の前に大きなお弁当箱を手にした御影が余裕そうな表情で佇んでいた。


「お嬢様、こちら、本日の朝食です」

「……御影、ふざけてるの? そんなにいっぱい朝から食べられないわよっ!」


気が急いていた私は、お弁当箱も受け取らずに階段を降り、広間を抜けて大きな玄関扉に向かって走った。
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