極悪人は仮面越しのまま彼女を溺愛する


「──やあ、お嬢さん。ようやくお目覚めかい?」


頭上から響いた冷ややかな声に、私はビクリと体を震わす。


怖くて視線を上げられない。

だけどここで怯んでいてはダメだ。


そう思って、私は声のした方に視線を上げ声の主をキッと睨みつけた。


「ん、んん!!」

「可哀想に。突然こんなトコに連れてこられて困惑してるよね」


男の顔は暗がりに隠れていてはっきりと見れない。

だけど窓から洩れる一筋の光が男の口元を照らしていた。


にやりと口角を上げたその姿に既視感を覚えて───


(みやび)。おれの名前」


こいつはあの日、フードをかぶっていた気味の悪い男だ。

なぜここで自己紹介なんてするんだろう。


その男が玉座のような大きな椅子から立ち上がり、暗がりから姿を現した。


「……っ」


その瞬間、冷淡な視線が私を突き刺す。

唇が綺麗な弧を描き、上機嫌につり上がっている。


あの日は地味そうだった男。

だけど今は、この世のものとは思えないくらい美しい顔立ちをした美青年が目の前に佇んでいる。

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