未来を創る骨(みらいをしばるくさり)
聞き取れないくらいの小声でお父さんが呟く。
「何? 呼んだ?」
聞き返すと慌てたように口を押さえ視線を逸らす。
「今、香奈子って言ったように聞こえたけど」
「なんでもないよ」
「そう? じゃあココア飲み終わったし部屋戻るね」
キッチンに飲み終えたマグカップを持って行き洗う。
手を拭いてリビングの扉に手をかけたときだった。
お父さんに呼び止められたのは。
「香奈子」
「ん?」
返事をして振り向くとお父さんは今まで見たことのない複雑な表情を浮かべて瞬きをせずに私を見ていた。
「香奈子。お父さんの子どもになってくれてありがとな。俺は子育てのこととか何も分からなかったけど香奈子にとっていいお父さんになれてたか?」
「どうしたの、突然。私のお父さんはお父さんしかいないよ。生まれ変わってもまたお父さんの子どもとして産まれてきたい」
「そうか。香奈子。親戚のところに行っても元気で頑張るんだぞ。何があっても俺のことを恨まないでほしい」
何故かお父さんともう会えないような気がした。
ここで頑張ると言ってしまったらもうお別れなんじゃないか。
そんな気がして素直に頷けない。
この違和感はなんだろう。
「お父さんもお仕事頑張ってね」
なんとか絞り出した声は情けないくらいに掠れていて、溢れそうな涙がばれないように急いで部屋に戻った。