執着魔法使いの美味しい求愛
 そのフレーテン商会長には娘が一人いる。名前は、ティルサ。年は十八歳になったところで、金色の髪に青い目と、特に目立った特徴もない。ただ、商会長の娘と言う肩書が彼女を有名人にしていた。
 ティルサはフレーテン商会が経営する一つの魔宝石店で働いている。

 カランコロンとベルを鳴らして、一人の客が店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
 魔宝石店は、店内にある魔宝石が痛まないように、外光を遮る造りをしている。大きな窓には厚くカーテンが引かれ、昼なのか夜なのかわからないような空間だ。それでも店内が煌々と明るいのは、灯りをともす魔法具――魔法灯(まほうとう)が店内の天井にいくつもぶら下がっているためである。
「あら、ルトヘル。今日はどのような用かしら? だけどお店はあと五分で閉店なの」
 今日のこの時間の店番はティルサだけだった。本来であれば、もう一人女性店員がいるのだが、今日は用があると言っていたので、早めに帰した。
 ティルサは夕方から閉店時間に店に立つことが多い。この時間帯は、仕事を終えた者が家に帰る前に立ち寄る時間帯。時間があるときにゆっくり選べばいいものの、彼らは急いで質のいい物を欲しがろうとする。
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