執着魔法使いの美味しい求愛
 そのため、商会長の娘でありながらも、誰よりも魔宝石について詳しい彼女が店に立つのだ。
「だからだよ。この時間なら、君が店にいると思ったからね。今日は、君一人なのかい?」
 ティルサがルトヘルと出会ったのは十年前。八歳のティルサが、当時十六歳であった彼を助けたことがきっかけだった。それ以来、ルトヘルは恩を感じているのか、こうやってティルサに会いにきている。
「君の仕事が終わるまで、ここで待っていてもいいかい?」
 彼がそう尋ねると、高い位置で一つに結わえてある長い漆黒の髪が馬の尻尾のように揺れ、緑色の瞳も優しく輝いていた。
 もちろんと言いたいが、ティルサはぐっとその言葉を飲み込んだ。
「ご自由に」
 ティルサはショーケースの上に並べてある魔宝石の原石を丁寧にしまっていく。
「ちょっと待って。その魔宝石(いし)を見せてもらえるかな」
「どうぞ」
 ルトヘルが見たいと言った魔宝石は、彼の瞳と同じ緑色の原石だ。
「ティルサ。これをもらうよ」
「即決? さすがね。だけど、これ。本当にいい魔宝石よ。加工と魔法付与はどうする? 今、少し込み合っているから、加工には一か月以上かかってしまうけれど。これと同じ魔宝石で、急ぎで加工済のものが欲しければ、そちらのショーケース」
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