執着魔法使いの美味しい求愛
 抑揚の無い声で、ルトヘルは尋ねた。
「あら、何? あなたたち、喧嘩でもしたの? だからティルサは家に戻ったの?」
 どこか賑やかに聞こえるノーラの声が腹立たしい。
「昨日のお茶会なんて、普通よ。特に変なことはなかったと思うけれど?」
「ですが。オレが彼女に魔力を注いだことによって彼女の体型がかわってしまったこと、それを告げた者がいるようなのですが」
 はぁ、と手にしていたフォークを一度皿の上に置いて、ノーラは言葉を口にする。
「そんなの、遅かれ早かれ、本人には知られてしまうことよ。あなたがきちんと説明をしなかったことが悪い。ティルサ本人に言わないまでも、私には何かしら聞いてくる者たちは今までだっていたのだから。あの婚約発表はやり過ぎよ」
「だから、あれは虫除けで……」
「虫除けも使い過ぎれば、本来守るべき花も枯れてしまうでしょう?」
 ノーラの言いたいことはわかる。
 つまり、ルトヘルはやり過ぎたのだ。彼女に魔力を注ぎ込むまではよかった。それはティルサがルトヘルと生活を共にするためには、必要な儀式でもあると思っていた。
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