執着魔法使いの美味しい求愛
 けして、彼女を傷つけたいわけではないのだ。
「ここは素直に、謝るのが一番だろうな。お前は、言葉が足りなすぎる」
 二人の会話を黙って聞いていたオスクが、ぽろっとその言葉をこぼした。
「そうね。素直に謝りなさい。あなたもたまにはいいこと、言うのね。ま、そんなあなたも言葉が足りなすぎると思うけれど?」
 ルトヘルとしては、両親の仲を取り持ちたいわけではなかった。
 にもかかわらず、目の前の両親がイチャイチャとし始めたら、傷心中のルトヘルには堪えるものだ。
 それにティルサには謝罪をした。昨日、何度も説明したし謝った。だが、彼女は怒ったままで、今朝になったら「家に帰る」と言い出した。
 せっかく今日は、ルトヘルの休暇の日であったのに。
「ごちそうさま」
 まだ少し料理が残っていたが、ルトヘルは乱暴に席を立った。
 イチャイチャしている両親を後目に、食堂を後にする。部屋へ戻ろうとしたところに突然現れたのは、エリンだった。
 ローブ姿のまま、この屋敷を訪れる彼女は珍しい。
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