執着魔法使いの美味しい求愛
　だが、あまりにも悔しくて眠ることができなかった。
　悔しい原因は何なのか。どこにあるのか。もう、それすらわからないくらいに、ぐるぐると悩んでいた。
　ふと、そのとき、イリスの言葉が思い出された。
　――何事も、引き際が肝心だ。
　ルトヘルとの婚約を、見直したほうがいいのかもしれない。彼の側から身を引くという選択肢も視野に入れたほうがいいのかもしれない。
　そう思って今朝、ルトヘルに向かって言ってしまったのだ。
『しばらく、家に戻ります』
　ルトヘルは何か言いたそうだったが、「わかった」と答えてくれた。
　そしてノーラにも事情を説明し、シラーニ家の屋敷からフレーテンの自宅へと戻ろうとした途中、ティルサは懐かしさから、あの魔宝石店に寄り道をした。
　イリスが言っていたように、魔宝石店は『閉店』のカードがかけられたままだった。
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