執着魔法使いの美味しい求愛
「原石のままでいい。だってここで加工を頼んだら、出来上がりを君に知られてしまうだろう?」
 そう言ってルトヘルは目尻を下げた。その笑顔に、ティルサはドキリとする。
(また、期待をもたせるような言い方をして……)
 ティルサは気持ちを落ち着けるように、大きく目を瞬いた。
「はい、どうぞ」
 魔宝石の原石をケースにいれ、ルトヘルに手渡す。
「加工費用はかからないから、原石のみの値段で、六万ダラよ。支払いは?」
「現金で」
 六万ダラといえば、この王都のシードマで家族四人にかかる半年分以上の生活費に相当する。
「そんな大金、いつも持ち歩いているの? 危険よ」
「まさか。今日は特別。今日なら、君に似合う魔宝石があると思ったからだ」
「また、そんなことばかり言って」
 ティルサは受け取った札を数えると、領収書を書いて彼に手渡す。お金はすかさず金庫へとしまった。今から明日の朝まで、この店舗が無人になってしまうからだ。
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