執着魔法使いの美味しい求愛
 ルトヘルはティルサのことが気になっていて、エリンを紹介することをすっかりと忘れていた。
「ああ。彼女はオレの従兄妹で同じ王宮魔法使いのエリン・リーグレ。今日はイリスさんに聞きたいことがあるとのことで、連れてきたのですが」
「ティルサのことも気になるので、用件を手短に伝えます」
 エリンの言葉でイリスは彼女がティルサの敵ではないと認識したようだ。
「最近、フレーテン商会で扱っている魔宝石が、闇市に出回っているのですが。盗難などの被害にはあわれておりませんか?」
 イリスは腕を組み、何やら考え込む。だが彼から得られた答えは、エリンが望むものではなかった。
「こちらを見てもらっても?」
 エリンがローブのポケットから、小さな魔宝石を一つ取り出した。小さな魔宝石であるが、色も形も良く、取り込める魔力量も期待できる品だ。
 それを手にしたイリスは魔法灯の下で念入りに魔宝石を確認する。
「これは……フレーテン商会のもので間違いない。この加工の仕方は、フレーテン商会の技術によるものだ」
「その技術だけが盗まれた。ということもりませんよね?」
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