執着魔法使いの美味しい求愛
◇◆◇◆

 ティルサは縛られているロープを解くことを諦めた。暴れるだけ無駄であると思ったからだ。
 両手首がすれてしまい、少し赤くなり始めている。これ以上続けると、血が出てきてしまうかもしれない。
(ルトヘル……。お父さん……。マクシム……)
 ティルサが頼りにする男性の顔が頭の中にぼんやりと浮かんでくる。
 先ほどから手足の先の感覚は薄れてきている。ロープを解こうと躍起になっていたせいかもしれない。
 重くなる瞼に抗いながらも、ティルサはどうやってここから抜け出そうかと考えていた。
 ――ギィ。
 扉が開く音がした。ティルサは思わず顔をあげる。扉の隙間から差し込んでくる明かりで、なんとなく人の姿を捉えることができた。
「さすが、フレーテン商会長の娘。泣き喚くようなことはしないんだな」
 金色の髪を引っ張られ、無理矢理顔を上げられた。
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