執着魔法使いの美味しい求愛
「ちょっと、ルトヘル。後始末に協力しなさいよ」
「他にも人はいるだろ。ティルサを家に帰すほうが先だ。ティルサからはオレから話を聞いておく。それがオレの仕事。じゃ、よろしく」
待ちなさいよ、とエリンは叫ぶが、それは本気ではないようだ。
ルトヘルはひらひらと手を振って、その場から立ち去った。
ティルサはシラーニ家の馬車に乗せられていた。しかも、ルトヘルの膝の上に座っている。横を向けばすぐにルトヘルの顔があるのに、それを見ることができない。
まだ街は闇に飲まれる前で、空はオレンジ色から紫色のグラデーションを作っていた。もう少し遅かったら、荷車に乗せられて隣国へと向かっていたことだろう。
カタンカタンと規則的に揺れる馬車は、シラーニ家に向かっているようだ。
ティルサは何を言ったらいいかがわからなかった。
ただ、彼と触れ合っている場所から感じる彼の温もりだけが、ティルサの気持ちを落ち着けていた。
「ティルサ……」
耳元のすぐ近くにあるルトヘルの艶やかな唇。彼の低い声で名を呼ばれると、息が耳に触れ、身体がさわりと震える。
「他にも人はいるだろ。ティルサを家に帰すほうが先だ。ティルサからはオレから話を聞いておく。それがオレの仕事。じゃ、よろしく」
待ちなさいよ、とエリンは叫ぶが、それは本気ではないようだ。
ルトヘルはひらひらと手を振って、その場から立ち去った。
ティルサはシラーニ家の馬車に乗せられていた。しかも、ルトヘルの膝の上に座っている。横を向けばすぐにルトヘルの顔があるのに、それを見ることができない。
まだ街は闇に飲まれる前で、空はオレンジ色から紫色のグラデーションを作っていた。もう少し遅かったら、荷車に乗せられて隣国へと向かっていたことだろう。
カタンカタンと規則的に揺れる馬車は、シラーニ家に向かっているようだ。
ティルサは何を言ったらいいかがわからなかった。
ただ、彼と触れ合っている場所から感じる彼の温もりだけが、ティルサの気持ちを落ち着けていた。
「ティルサ……」
耳元のすぐ近くにあるルトヘルの艶やかな唇。彼の低い声で名を呼ばれると、息が耳に触れ、身体がさわりと震える。