執着魔法使いの美味しい求愛
「そんなルトヘル。初めて見たわ。ほら、私、胸も小さかったから……。白いドレスを着ても、胸が余っちゃって。それでミルテがね、いろいろとやってくれたのよね」
 どこか遠くを見つめるように、過去を思い出すティルサの横顔に、ルトヘルの心臓はドキリと音を立てる。
「だけど、あのとき。君をダンスに誘いたそうにしている男はたくさんいた。だから、オレがずっと側にいた」
「そうなの?」
「そうだよ。ティルサはもう少し自覚を持ったほうがいい。他の男も君の魅力にやられるんだ」
「だけど、私が太り始めてからは、みんな離れていったわ。だからみんな、私じゃなくてフレーテン商会を見ていたのよ」
 その理由は簡単だ。彼女が太ったからではない。彼女から魔力を感じたからだ。
 魔法使いではないティルサが魔力を持っているとは、どういうことか。賢い魔法使いであれば、すぐに理解するはずだ。まして、フレーテン商会と繋がりを持ちたいと思っている彼らであれば。
 ルトヘルは彼女の胸元に落ちたクッキーを咥えると、ティルサの口の前に差し出す。
 目を丸くしたティルサは、彼が与えたクッキーに唇を寄せ、ぱくりと食べた。その瞬間、二人の唇が触れる。
「ティルサ。これからもオレの愛をたくさん食べてね」
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