執着魔法使いの美味しい求愛
 ティルサとルトヘルの婚約を発表したあのパーティーで、ティルサの耳に届いたのは、「かわいそう」とか「エリン様のほうが」とか、そういった否定的な言葉だったのだ。
 誰に相談したらいいかもわからず、彼女はずっと心の中に隠していた。
 だが、やっと吹っ切れた。吹っ切れたからこそ、今、エリンに尋ねたのだ。
「あぁ、それ。意味は違うわよ」
 手巾で口元を拭き終えたエリンは、コホンと可愛らしく咳払いをする。
「あそこにいた上位魔法貴族はね。ティルサからルトヘルの魔力を感じ取ったの。もう、それだけでルトヘルの独占欲が丸見えだからね。それで『かわいそう』ってことね。魔法貴族でもないのに、ルトヘルから重い愛を注がれてかわいそうっていう意味よ。ルトヘル本人に尋ねても教えてくれないだろうから、私に聞いたほうがいいってことで、私の名前が出たのよ」
「そ、そうなの?」
 思ってもいない答えに、ティルサは動揺する。
「そうよ。だってあの後、私も伯母様も、ティルサはどんな子かって、質問攻めにあって大変だったんだから。それに私、ティルサには『ありがとう』って言ったわよね。あなたがいるから、私はルトヘルと結婚しなくて済むし」
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