執着魔法使いの美味しい求愛
 だからこそ、ティルサにとっては大問題なのだ。
 美味しいから、ついつい食べ過ぎてしまう。さらに、ルトヘルも次から次へとティルサの皿に食べ物をのせてくる。
 商人の娘であるティルサは、食事一つにしても、どれだけの人が関係して、どれだけの手間がかかっているのかを知っている。だから、食事を残すということはしない。
「今日は、ちょっと……。って、私が断ったらどうするの?」
「残念ながら、君に食べてもらうはずだった料理が捨てられてしまうだけだね」
「行くわ……」
「君ならそう言うと思った」
 だから、断ることができないのだ。
 店の裏口から外に出ると、日はすでに落ち切って、魔法灯が街を照らしていた。この魔法灯によって、こうやって人々は夜の街を楽しむことができている。
 ルトヘルが暮らしているシラーニ魔法公爵家の別邸はここから歩いて十分程度。そしてフレーテン家の屋敷も、反対方向に歩いて十分程度。お互い、王都で仕事のしやすい環境を根城にしている。
「馬車を使う?」
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