執着魔法使いの美味しい求愛
(間違いなく、太っている……)
 それが彼女の歩きたい理由でもあった。
 ティルサが太っていることを気になり出したのは、あのデビュタントから、二か月程過ぎた頃だった。
 普段のティルサはコルセットが必要な格式ばったドレスを着るようなことはしない。シュミーズの上から簡素なドレスを着て、肌寒いときは上着を羽織る。だからお店に立つときは、コルセットのいらないハイウェストのドレスを着ていた。
 このハイウェストのドレスが問題となった。いくら布のたるみを生かしたドレスといえども、ティルサが大きくなっても布のたるみが広がるわけではない。着替えを手伝ってくれる侍女のミルテさえも困惑の表情を浮かべるほど。
 すぐに新しいドレスが手配され、サイズが次第に大きくなっていく。
 一年前から比べると、服のサイズはかなり大きくなっている。もちろん、縦にではなく横に。ティルサ本人から見ると、身体の肉もたるんできたように見える。
 顔も丸みを帯び、全身も丸くなっているし、ティルサ本人でさえ、身体が重いと感じることがある。
 それにもかかわらず、ルトヘルは何も言わないし、昔と変わらず接してくれる。
 彼は、気づいているのだろうか。ティルサが一年前と比べて、これだけ太ってしまった事実に。
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