執着魔法使いの美味しい求愛
「どうかした?」
 ティルサは自分でも知らないうちに、繋いでいた手に力を込めていたようだ。
 それに気づいたルトヘルは、不思議そうにティルサを見下ろしている。だけど、その顔には温かな笑みが浮かんでいた。
「いいえ」
 私、太ったよね? と聞きたいけど聞けなかった。ここで肯定されてしまうことが怖かった。醜い姿をルトヘルに曝け出している事実を突きつけられるような感じがするからだ。
(そうよ、ルトヘルのせいなのよ。ルトヘルがこうやって夕食に誘うから)
 思い返せば、ルトヘルがティルサを自宅の夕食に誘うようになったのは、一年前からだ。何か理由をつけて、三日に一度、ティルサを夕食に誘う。そういった日は、事前にフレーテン家の執事にも話が伝わっているようで、フレーテン家の屋敷では彼女の夕食の準備をしていない。ルトヘルの根回しの良さには舌を巻く。
 ルトヘルの屋敷に、彼の両親は住んでいない。どうやら、領地の本邸にいるらしく、別邸の管理や王都で必要なことは、全てルトヘルが行っているとのこと。それは、いずれ彼がシラーニ魔法公爵を継ぐためであると、どことなく噂されていた。
 フレーテンの屋敷に着くと、見知った使用人が深々と頭を下げ、上着と荷物を預かり、食堂へと案内される。この行為にもやっと慣れた。商人の娘と魔法貴族の生活の違いを見せつけられた気分だ。
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