執着魔法使いの美味しい求愛
 だが、フレーテン家の使用人からは、ティルサのことを快く思っていることが伝わってくる。
「ティルサの好きな物を準備してもらった」
 広い食堂のテーブルについているのはルトヘルとティルサの二人のみ。ルトヘルの後ろには、グレイの髪を後ろに撫でつけた執事が穏やかに笑みを浮かべている。
 食堂の中央には、魔法灯のシャンデリアがまばゆく輝いていた。
 豪勢な料理を目の前に、フォークとナイフをかまえたティルサは、ルトヘルの言葉通りに好きな食材が使われている料理に目を走らせた。
「ありがとう。料理人のダンさんにも、伝えてもらっていいかしら?」
「もちろん。彼も喜ぶよ。みんな、ティルサが来ると知ると、張り切るからね」
「本当にルトヘルは、私を褒めるのが上手ね」
「褒める? オレは事実しか口にしていないよ。ほら、これもダンの渾身の一作なんだ。君に食べてもらわないと、彼も困るからね。口を開けて」
 こうやってルトヘルは、ティルサの返事も聞かないうちに、食べさせようとしてくる。もちろんティルサが食べなければ捨てるだけと、ルトヘルは食べ物を粗末にするようなことを口にするのだ。そしてその言葉がティルサに対して最も効果的であることを知っている。
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