執着魔法使いの美味しい求愛
「あっちだ」
「いたぞ」
(ちっ、見つかったか)
 どうやら騎士たちも馬鹿ではなかったらしい。すぐさまルトヘルの姿を見つけると、再び追いかけてきた。
「待ちやがれ。このクソ小僧」
 騎士が口にしていい言葉とは思えない。騎士たるもの、名門貴族の出が多いはずなのだが。
 カツカツとレンガ路にブーツ音を響かせながら、前を行き交う人々の隙間をかいくぐって、ルトヘルは走った。だが、このままでは彼らに捕まるのは時間の問題だろう。
 彼らは現役の騎士だ。それに引き換えルトヘルは、魔法使いである。体力的には、圧倒的に彼らに劣る。転移魔法を用いて逃げるという手段も考えたのだが、魔力が安定していない今、それを使うのはかなり危険であると判断した。
(そうだよ。ボクは人助けで魔法を使っただけなのに)
 ルトヘルは重い荷物を手にして困っている人のために、荷物を軽くする魔法をかけようとした。だが、その魔法がうまく制御できなかったことによって、荷物がふわりと浮き上がってしまった。運の悪いことに、街の警備にあたっていた騎士の頭上に、それがどんと落ちたのだ。その騎士は気を失い、ルトヘルは逃げた。
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