執着魔法使いの美味しい求愛
 彼は、いつもそうやってすぐに謝ってくる。ティルサが機嫌を損ねないようにと、いつも気遣っている。
 きっとフレーテン商会との繋がりが切れてしまうことを気にしているのだろう。ティルサを通じて、ルトヘルはイリスとも仲が良い。今、二人がどのような関係であるのか、ティルサにはよくわからない。
 この国の魔法使いは、フレーテン商会と繋がりを持ちたいと思っている。
 フレーテン商会といえば、トホテミ国でも有数の商会だ。
 その会長に媚びを売ろうとする者たちを、ティルサも数多く目にしている。特にティルサがデビュタントを迎えてからというもの、その後の一か月は、贈り物や手紙などがひっきりなしに届いていた。送り主は、男性魔法使いが多かった。中には女性もちらほらいて、お茶会に誘いたいといった文面もあった。
 ティルサは全てに目を通し、全てにお断りの返事を書いた。ここで、誰かの誘いを受けてしまうと、フレーテン商会はあの魔法貴族と取引を始めようとしていると、変に噂が立ってしまうからだ。
 なにしろ彼らは、ティルサを通してフレーテン会長に取り入ろうとしているのだから。
 だが、それがパタリと止んだのは、ティルサが太り始めた頃からだろう。ティルサのことはあきらめ、直接イリスと交渉を始めた。
 ティルサと仲良くなるメリットが見いだせなかったのだ。そもそもティルサは見目のいい女性でもない。そしてフレーテン商会と繋がりも持てない。となれば、媚びをうるだけ損であると、彼らはそう判断したようだ。
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