執着魔法使いの美味しい求愛
「ティルサ」
 名を呼ばれ、物思いに耽っていたティルサは、はっと顔をあげる。
「そろそろ着くけど。もしかして、眠ってた? 遅くまで引き止めて悪かったね」
「あ、ううん。眠ってはいない。ちょっと、考え事をしていただけ」
 ティルサは、少しだけ微笑んだ。
(うまく、笑えているかしら……)
 ルトヘルトとこうやって話をするたびに、胸が痛む。
 ルトヘルはティルサを通して、フレーテン商会を見ているにちがいあるまい。
「そうか……」
 彼は嬉しそうに目を細くして、じっとティルサを見つめていた。
「ルトヘルのほうこそ、どうかしたの?」
「あ、うん……。オレもちょっと、考えていた」
「何を?」
「ティルサに伝えたいことがあるから」
 言うと、ルトヘルはすっと姿勢を正した。ティルサの胸も、ドキリと痛んだ。
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