執着魔法使いの美味しい求愛
 魔宝石店で働きながらも、ティルサはルトヘルの誕生日パーティーについて考えていた。
(こんな姿をみんなに見られたら……)
 仕事に夢中になっているときは、まだいい。だけど、一人になったときにふと不安が襲いかかってくる。
 彼の誕生日パーティーで太っている醜い姿を晒していいのだろうか。もう少し、痩せてからのほうがいいのではないか。
 そういった気持ちもあり、ティルサは毎朝、庭の散歩をしていた。ミルテも散歩に付き合ってくれる。
 ミルテとの付き合いは長い。かれこれもう八年。八つ年上の彼女は、ティルサにとって姉のような存在でもある。金色の髪をひっつめているだけの彼女であるが、いつも笑顔を絶やさない。
 ティルサが体型を気にしていることにも気づいており、彼女から散歩に誘ってくれたのだ。
 だが、そんな努力の甲斐もむなしく、まして、数日で劇的に体型も変わるわけでもない。

 ――コンコンコン。
 自室で魔宝石事典に目を走らせていたティルサは、部屋の扉を叩かれたため返事をする。姿を現したのはマクシムだった。
 扉の一歩前に立ち、部屋の奥までは入ってこない。
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