執着魔法使いの美味しい求愛
 ルトヘルが立ち上がり、ティルサの名を口にする。
「ティルサ」
「は、はい……」
 ティルサも立ち上がると、ルトヘルは彼女の前で跪き、左手を取る。
「ティルサ・フレーテン。一生かけてあなたを幸せにすることを誓います。どうか、このルトヘル・シラーニと結婚していただけないでしょうか」
 ルトヘルの顔は、いつにも増して引き締まっており、誠実さが感じられる。
 彼に取られている左手が熱い。身体の熱の全てがそこに集中してしまったのではないかと思えるほどに。
 心臓も早鐘のように打ちつけて、ドクドクと胸が苦しくなっていく。
(ルトヘルは、本当に私でいいのかしら……。本気なの?)
 青い眼を力なく揺らしながら、ティルサは彼の顔を見つめた。ルトヘルは力強くティルサを見つめ返してくる。
「……はい。私で良ければ……」
 ルトヘルはティルサの言葉を聞くなり、左手の甲に口づけを落とし、その薬指に指輪をはめた。
「ルトヘル……。これ……」
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