執着魔法使いの美味しい求愛
 ティルサには指輪についている魔宝石に見覚えはあった。
「そう。あのとき、君の店で一目ぼれした魔宝石。いつでも身に着けて欲しくて、指輪に加工した。もちろん、魔法付与もしてある」
 ティルサは思わず振り返り、イリスの顔を見る。彼も朗らかに微笑んでいて「うんうん」と頷いていた。
 ティルサの目頭が熱くなってきた。
 期待していなかったわけではない。だけど、最近のティルサの外見の変わりようが、自信を奪っていったのだ。
「オレと、お揃いだから」
 いつの間にか、ルトヘルの口調も元に戻っている。そして、お揃いと見せた彼の左手の薬指には、同じ魔宝石をあしらえた指輪が光っていた。
「よかった。ティルサに受け入れてもらえて」
「お父さん」
「うん。ルトヘルくんなら、安心してティルサを任せられるし。何より、長年の付き合いだからね。いずれは、この商会も任せたいし」
「だけどルトヘルは、シラーニ魔法公爵位を継ぐのでしょう?」
「ティルサ。家を継ぐのと、商会を任せることは、意味が違うよ。それに、ルトヘルくんには、今でも商会の仕事を手伝ってもらっているからね」
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