執着魔法使いの美味しい求愛
 ルトヘルの誕生日パーティーがやってきた。
 朝から張り切っているのはイリスであった。
 ミルテもティルサを着飾らせることに余念はない。朝から風呂に入れられ、身体中に香油をすり込まれ、爪の先まで見事に磨かれた。
「本当に、お嬢様にお似合いのドレスですね。ルトヘル様、さすがです」
 ミルテまでうっとりとしてしまうほど、ルトヘルから送られたドレスをまとったティルサは別人のようだった。
 魔宝石店に立つティルサは自信に満ち溢れている。それは、誰よりも魔宝石に詳しいという自負があるからだ。
 だが、一人の女性としてルトヘルの隣に並ぶときは、どこか周囲の顔色をうかがいながら、作り笑いを浮かべるような、自信のない姿であった。
「これなら、太っていることも誤魔化せるかしら」
 ついそのような言葉がティルサから零れたのは、ここにはミルテしかいないからだった。
「誤魔化すだなんて。これはお嬢様の魅力を充分に引き出してくれるドレスですよ。それに、お嬢様は、不健康で太っているのではないと思うのです。……あ、失礼しました」
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