執着魔法使いの美味しい求愛
 ミルテはティルサを励まそうとしているのだろう。だから、つい「太った」と口にしてしまったようだ。それを詫びているのだ。
「いいえ。何か気がついたことがあるのであれば、遠慮なく言ってちょうだい。せっかくルトヘルと婚約したのだもの。できるだけ、彼に相応しくありたいと思っているの。そのためなら、他の人の話も聞かないと。それに、私、あの頃の私とは違うもの」
 あの頃の私とは、ティルサがルトヘルと出会った頃だ。
 フレーテン商会の娘といえば「わがまま娘」と呼ばれていた頃。
 お店に入っては駄々をこね、使用人を困らせている。欲しい物は手に入れないと気が済まない。など、散々言われていたときもあった。
 ちょうどその頃、母親を失った時で、誰かにかまってもらいたかったのだと、大人になってから反省をした。
「では、遠慮なく」
 ミルテのそんな軽い口調が許されるのも、付き合いが長いためである。
「お嬢様は、毎日お店にも立たれておりますし、お散歩もされております。食事も暴飲暴食といった感じもなく、適切な量を召し上がっております」
 特にティルサが体型を気にし始めてからは、ティータイムに摘まむお菓子も、甘い焼き菓子から果物に変えてもらっている。それでも問題だと思っているのが、ルトヘルの屋敷でいただく彼との夕食なのだ。
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