執着魔法使いの美味しい求愛
 父親であるイリスに相談するのはわかる。だが、ルトヘルはまだ婚約者だ。目を何度か瞬いてミルテを見つめると、彼女は黙って頷いた。
「わかったわ。ルトヘルにも相談してみる」
 その言葉を聞いたミルテは、安心したように微笑んだ。
 ルトヘルから贈られたドレスは、少しだけティルサへ自信を持たせてくれたようで、いつもであれば気が重いと感じるパーティーにも、笑顔で参加することができそうだった。
「お嬢様。ルトヘル様がお見えになりました」
 彼の誕生日パーティーであるにも関わらず、こうやって律儀に迎えにまで来てくれる。
 主役が不在でいいのだろうか、と思ってしまうほど。
「お待たせしました」
 マクシムに手を引かれるようにして、ティルサはエントランスへと向かった。
「ルトヘル。今日は、ありがとう。このような素敵なドレスを……」
 ティルサはそれ以上、言葉が続かなかった。ルトヘルは、ティルサの上から下までを首を動かしながらじっくりと見つめ、口元を綻ばせた。
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