執着魔法使いの美味しい求愛
 彼の言葉に、ティルサの気持ちはトクンと跳ねた。
 ルトヘルの両親とは、何度か会ったことがある。彼に似て、非常に穏やかな両親であった。
 彼と出会ったばかりのとき、ルトヘルがティルサとの出会いを両親に説明したとき、彼らはティルサに対して礼を口にしたのだ。それだけでも、幼いティルサにとっては、彼の両親に認められたという思いが強かった。
 馬車が止まり、ゆっくりと外側から扉が開かれると、ティルサはルトヘルの手を取って馬車から降りた。
 何度も足を運んだことのあるルトヘルの屋敷だが、このように太陽が高いうちから訪れるのは久しぶりだ。いつもは魔宝石店での仕事を終え、辺りがほんのりと暗くなってからの時間帯が多い。
 深い緑色の窓は、真っ白い外壁に左右対称に整って配置されている。
 建物には奥行もあり、どの方面からも広い庭の景色が堪能できるような造りになっていた。
 太陽の光を充分に取り入れることのできる温室には、ルトヘルが丹精を込めて育てている色とりどりの珍しい花が並んでいる。
 その話をティルサがルトヘルから聞いたとき、彼が花に興味があることにいささか驚いたものだ。
 エントランスホールから真正面に進むと、円形天蓋のある大ホールになる。壁や天井には、化粧漆喰のレリーフが施され、今日はこの大ホールで、彼の二十六回目の誕生日パーティーが開かれる。
 だが、ティルサが案内されたのは、二階にある応接室。
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