執着魔法使いの美味しい求愛
 彼女の指示に従い、レンガの上にうつ伏せになった。
「うっ」
「悪いけど、ちょっとだけ我慢して」
 ルトヘルが(うめ)き声をあげたのは、うつ伏せになった途端、少女がブーツを履いたまま、彼の背に片足をのせてきたからだ。
「マクシム、今よ」
 少女が言うと、ルトヘルのローブを預かった二十代くらいの男が、袋から何かをばらまいた。それはビスケットだった。ルトヘルの目の前にもビスケットが一枚転がって、甘い香りが鼻についた。
「このクズ。あなたのせいで、私の大事なおやつがダメになったじゃないのよ」
 ルトヘルには何が起こったのか、さっぱりわからなかった。これで、あの騎士から逃れることが本当にできるのだろうか。
 だが、ここまでやられてしまった以上、終わるまで付き合ったほうが得策であると考えた。何しろ、魔法使いの象徴であるローブは彼女たちの手の中にある。
「ちょっと、何、見てんのよ」
 この路地裏に、誰かがやってきた。
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