執着魔法使いの美味しい求愛
 エリンも魔法貴族の人間だろう。つい数年前まで平民だったティルサよりは、身分が上のはず。
「ま、嬉しい。だったら、私のこともエリンと呼んでね。あぁ、よかったわ。あなたがルトヘルと婚約してくれて。本当にありがとう」
 お祝いの言葉ではなく御礼の言葉をかけられたことに、ティルサは戸惑いを覚えつつも、エリンが好意的であることは伝わってきた。
「そろそろ時間ね。エリン、あなたは私と先にホールに行きましょう。ティルサさんは、ルトヘルが来るまでもう少し待っていてね」
 ノーラの声に頷きつつ、ノーラとエリンの背を見送った。
 一人にされたことで、急に不安が押し寄せてくる。
 ルトヘルの従兄妹のエリンは、ティルサと違ってスレンダーで女性らしい体つきだった。濃紺のドレスが、いっそう彼女の魅力的な身体を引き立てている。
 ぎゅっとドレスの裾をつまむ。ルトヘルがティルサのために選んでくれたドレスであるけれど、そのドレスを纏っている人間が問題なのだ。
「ああ、ティルサ。待たせてごめん……。もしかして、泣いてる? 誰かにいじめられたのか?」
 乱暴に扉をあけ放ち、ルトヘルが戻ってきた。ティルサが俯いていたから泣いているように見えたのだろう。
「泣いていないわ。少し緊張しているだけ」
「そうか」
 ルトヘルはティルサを抱き寄せ、彼女の腰に手を回す。
「では、行こうか。オレの姫様」
 ルトヘルはティルサの額に口づけた。
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