執着魔法使いの美味しい求愛
「君の部屋に入ったのは、子どものとき以来だね。大きなうさぎのぬいぐるみとは、もう、一緒に寝ていないのかい?」
「いったい、いくつのときの話をしているのよ」
「でも、部屋は変わらないね」
 ティルサの部屋は、女性らしい明るい色調の部屋だ。その中でも彼女の一番のお気に入りは、薄紅色のカーテン。このカーテンには、まばらに魔法石が施されていた。
 この魔宝石は、加工した時に捨てられる部分、つまり魔法付与ができなかった部分だが、装飾品として使われることが多い。特に魔法灯との相性が良く、夜になって魔法灯に灯りが灯ると、魔宝石がその灯りを反射させて、ゆらゆらと光るのだ。
「もう、勝手に入ってきて。どうぞ、そこに座って」
 ふん、と頬を膨らませながらも、ティルサはワイン色のソファにルトヘルを促した。ミルテに目配せをして、お茶の準備を頼む。
「それで。今日はどうしたの?」
 ティルサはルトヘルの向かい側に座る。
「どうしたの、って。君がお店を休んでいると聞いたから、心配になって来たんだよ。それに、ここ最近は、体調も悪そうに見えたから」
「そうね。少し、疲れちゃったの」
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