執着魔法使いの美味しい求愛
   ◇◆◇◆

 ティルサを見舞ったルトヘルは、帰路についていた。ここから自分の屋敷までは歩いて二十分。歩けない距離ではないため、歩いて帰る。
 日は沈みかけていて、レンガ路に長くて不格好な影を作っていた。
 ルトヘルの誤算は、ティルサが自分の外見を非常に気にしていたことだった。自分の姿など自分から見ることができないから、大して気にもならないと思っていたのだ。
 だが彼女は、ルトヘルの隣に似合う姿になりたいと口にした。その健気な姿に、自然と笑みが零れてしまう。
(ティルサは知らない。ティルサがああなってしまったのが、オレのせいであることに)
 太陽の光を背に浴びながら、カツカツと響くブーツ音。
 ティルサは一年前に貴族の世界へデビューした。それはルトヘルにとって思ってもいない出来事だった。
 きっかけはフレーテン商会長の爵位の授与だ。本人は長年断っていたようだが、国としては国の経済に大きな効果をもたらしている彼を、ないがしろにするわけにはいかないと判断したようだ。その結果、他の者にも示しがつかないと、説得しての授与となった。
 その流れで、ティルサは社交界デビューを果たすこととなる。
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