執着魔法使いの美味しい求愛
「お嬢様、彼らはもう行ってしまったようです」
「ありがとう、マクシム。あなたも、もう大丈夫よ」
 ルトヘルの背から足を退かした少女が、彼に手を差し伸べてきた。
 地面に身体が張り付いているような感覚になっていたルトヘルは、思わず少女の手を取った。
 その瞬間、ビリっと身体に衝撃が走る。
(なんだ……、この()……)
 胸がぎゅっと締め付けられた。目の前の彼女は、まだ一桁の年代だというのに。
「ありがとう、助かった」
 胸が苦しいが、ルトヘルは彼女への礼を口にした。それは社交辞令ではなく、心の中からそう思っている言葉だ。
「いいえ。私、騎士の人って大嫌いなの。だから、あなたが追われているのを見て。ちょっとね。他に考えが浮かばなかったから。私なら、ああする方が手っ取り早いのよ」
 ふふっと少女が笑うと、えくぼが現れた。
 その笑みが、どこか自虐的にも見えた。騎士が口にした「フレーテン商会」「わがまま娘」が関係しているに違いない。彼女に、このような笑顔をさせるあの騎士達に、怒りすら込み上げてくる。
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