執着魔法使いの美味しい求愛
 彼女から相談されたときは、心臓が止まるかと思った。まして、デビュタントの白いドレスを着たティルサの姿を一目見た瞬間、心臓が口から出るのではないかと思った。
 商売人の娘らしい気高さと、そして客商売として築き上げてきた社交性が溢れていた。
 彼女自身は気づいていない。そこにいた男どもが、彼女をダンスに誘いたそうにしていたことに。だから、ルトヘルがずっと側にいた。他の男どもが近づかないようにと、牽制していたのだ。
 それでもルトヘルはこの後が心配だった。ルトヘルだって一日中、彼女と一緒にいるわけにはいかないからだ。
 ルトヘルとしては不本意であるが、王宮魔法使いとしての仕事もあるし、彼女だって魔宝石店での仕事がある。
 四六時中一緒にいたいという欲望をひた隠しに、どうしたら彼女から男どもを遠ざけられるかということを考えていた。
 彼女と結婚をすることが手っ取り早いのだが、それは彼女が十八歳になってからというのが、イリスとの約束だった。その前に婚約をして縛り付けることをしてもならない、と。
 ティルサにも選ぶ権利がある、というのがイリスの主張だった。
 結婚ができない、となれば自分のものである証を残せばいい。ルトヘルはそう考えた。
 だから、彼女のデビュタント以降、ルトヘルは自身の魔力をティルサに注ぎ込み始めた。彼女を数日に一度夕食に誘うのは、定期的に魔力を注ぐためだった。
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