執着魔法使いの美味しい求愛
「あなたのお洋服を汚してしまってごめんなさい。お詫びをさせてもらえない?」
「いや、このくらいなら気にしないで。むしろ、ボクを助けてくれてありがとう」
「だから、さっきも言ったでしょ? 私、騎士って嫌いなの。あの人たち、すぐに平民の私たちを見下してくるから」
 少女が着ているのは上等な布地のワンピースだ。フリルがふんだんに使われ、まるで春の妖精のような淡い装いでもある。とても平民には見えない。
「ね。私の家、すぐそこだから」
 先ほどから繋いでいた右手に、少女はもう片方の手を重ねて、両手でがっしりとルトヘルの手を握りしめた。
「だけど……」
 むしろ礼をしたいのはルトヘルのほうだ。今すぐにでも自分の屋敷に連れ帰って、両親に紹介したいほど。
「大変申し訳ないのですが、このようになってしまったお嬢様をお止めすることはできないのです。お時間が許すのであれば、どうかお嬢様と一緒の時間を過ごしていただけないでしょうか」
 丁寧な物腰で、穏やかに声をかけてきたのは、先ほどルトヘルのローブを預かった男だ。
「お嬢様。きちんと、自己紹介をすることはできますか?」
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