執着魔法使いの美味しい求愛
 シラーニ家の屋敷を後にしようとしたところ、彼女はノーラに呼び止められた。
「本当にルトヘルが独り占めしてしまって、なかなかお話ができないけれど。あなたさえ良ければ、シラーニ家で行儀見習いをしないかしら? 本当であれば、社交界デビュー前にすべきことなんだけれど」
「母さん……」
「あら、ルトヘルにとっても悪い話ではないと思うのだけれど?」
 ティルサはルトヘルとノーラの顔を交互に見つめた。この話は引き受けてもいいのだろうか。引き受けたほうがいいのだろうか。
 大きく肩を落としたのは、ルトヘルだった。
「ティルサ。母さんもこう言っていることだし、もしよかったら。イリスさんには、きちんとシラーニ家として話を通すから」
「はい。前向きに検討させていただきます」
 ティルサが頭を下げようとしたとき、ノーラが勝ち誇ったような笑みを浮かべていたことが気になった。

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