執着魔法使いの美味しい求愛

　シラーニ家の動きは早かった。
　ティルサがノーラからその話をされた次の日には、イリスの耳にも届いていた。
「ティルサはどうしたい？」
　昼食の時間。ティルサが店に立つのは夕方が多く、イリスも今日は昼過ぎから魔宝石店の本店で行われる会議に出席する予定であった。
　フレーテン家の食堂は、狭い。といっても、シラーニ家の屋敷と比較したらの話であり、ティルサとイリスが二人で食事をするには、充分な広さだ。
　食堂のテーブルも六人掛けで、けして豪華なテーブルではない。だがこのテーブルは、イリスにとって思い出の品のようだった。
　お酒が入って気分が良くなると、イリスはこのテーブルの話をしてくれる。ティルサはその話を聞くのが嫌いではなかった。
「やってみたい。覚えることはたくさんあるから」
「ティルサがそう言うのであれば、俺からは何も言えないな。だけど、結婚する前に、お互いのことをよく知っておくのは必要だとは思う。特に、俺たちとあちらは、生活などもだいぶ異なるだろうからな」
「お父さん。私がいなくなっても、寂しくならない？」