執着魔法使いの美味しい求愛
 ティルサが尋ねると、イリスは困ったような笑みを浮かべている。
「寂しくないといったら、嘘になるな。だけど、ティルサが新しい家族を持つことは、俺にとっても新しい家族ができることだから、それは喜ぶべきことだとは思っている」
「お父さん、ごめんなさい……」
 ティルサの手が止まる。
「なぜ、謝る?」
 イリスは動かしていた手を止め、ティルサに視線を向けてきた。
「商会を、継ぐことができないから……。本当は、私が婿をとってここを継ぐべきなのよね」
 イリスは、手にしていたフォークをテーブルの上に置いた。
「ティルサ。そんなことを気にしていたのか? 言っただろう? 俺たちは貴族様とは違う。だから、政略結婚などはさせない。ルトヘルくんとの結婚を認めるのは、ティルサが彼のことを好きだと知っていたからだよ。それにルトヘルくんが、この商会に乗り気だ」
 ティルサは思わず大きく目を開くと、イリスを見つめた。彼は穏やかに笑っている。
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