執着魔法使いの美味しい求愛
(知られていた……)
 その思いが、ティルサを羞恥へと誘う。ティルサとしては、ルトヘルへの気持ちを隠していたつもりだった。やはり「つもり」では駄目なようだ。
「魔法貴族と貴族様では、また違うところはあるけれど。ルトヘルくんなら、ティルサのことを幸せにしてくれるだろうなと、そう思ったからね。それに、俺だってまだまだ若い。商会は、今のところは誰にも譲らないよ」
「お父さんは、再婚、しないの? もし、私に気を遣っていたんだったら……」
 するとイリスは困ったような笑みを浮かべる。
「今のところ、そういった出会いがないからな。別に、ティルサに気を遣っていたわけではない」
 どこか遠くを見るような視線で、そっとテーブルを撫でるイリスの姿を見れば、今でも亡くなった母親のことを想っていることが伝わってくる。
「お父さん、ごめんなさい。変なことを言って」
「いや。さ、食べようか」
 二人は再び手を動かし始めた。
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