執着魔法使いの美味しい求愛
 食後の飲み物が運ばれてきたところで、イリスは口を開く。
「そうだ、ティルサ。あの店だが、閉じることにする。君がシラーニ家で行儀見習いをするというのも、ちょうどいい機会だと思った」
 ティルサは信じられないとでも言うかのように、目を何度も瞬いた。
「あの店は、中途半端だった。場所的にも扱う商品も。誰でも気軽に立ち寄れる魔宝石店を考えていたが、やって来る客は貴族様か平民でも裕福な者たちばかりだったろう?」
 イリスの言葉にティルサは頷く。
 安価な魔法石を並べてみたものの、売れるのは客寄せのために並べていた高価な魔宝石が多かった。
 そして『誰でも気軽に立ち寄れる魔宝石店』は、ここ数年、イリスとティルサが考えていたことだ。
「やはり、場所が良くなかった」
「あそこで働いていた人たちは?」
「本店に異動させる。何事も、引き際が肝心だ」
 その言葉が、なぜかティルサの心に重くのしかかったのだった。

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